Last NAME 閃光の英雄と闇の奏者 第三章

精霊玉

第三章 『柱』と過去


第二章  『柱』と過去


凛珠たちが本部に帰還した日の夜。

「ご苦労だった。近隣の町から礼状が届いているぞ。ほら」

『蒼き鳥』本部長、伊沢 夏澄は本部に帰還した凛珠、千尋、修一を見て言った。

「この量、何ですか」

凛珠が礼状のあまりの多さに顔をひきつらせながら言った。

「これがすべて礼状だ。あの悪魔には随分被害を出されたからな。事後処理連中の話では、その周辺の住民たちが泣いて喜んでいたらしいぞ」

夏澄は言ったのを凛珠は無視して言った。

「修一が来ることを何で教えてくれなかったんだ。『あの人』は何て言ってる?」

バンと机に手をたたきつけ凛珠は言った。

「そう怒るな、凛珠。『あの人』はこう仰せになられた。『凛珠に言ったってどうせ要らないとかいうのがオチだな』とな」

「はあ!?」

凛珠が顔をひきつらせた。

「まあ、あの方がよこした修一は、随分力を持っているだろう?お前に匹敵するほど……な」

その言葉には凛珠でも異論はなかった。ここまで自分の力の大きさに近い奴は『蒼き鳥』内部でも、あの葉月一族や紅葉一族にもそうそういない。

「それと、あの方はこうも仰せになられていた。『蒼き鳥』と敵対しているものを、あの三人組に教えておけとな」

「はあ?」

修一が言った。

「われらはある組織と戦い続けている。設立当初からな。その敵対しているものは、俗に『闇夜』と呼ばれている。この世界ができた時からある、世界の闇というべきか」

「それらを野放しにしておくと、人は、生きられないと?」

凛珠の言葉に夏澄は頷いた。

「そういうことだ。詳しいことは、後で資料を渡す。……後、何かあるか?」

夏澄の言葉に凛珠は言った。

「さっきのことだけれど、本人目の前にして言うことじゃないと思うがな。……あと、訊きたいことがある」

「ほう、お前がそういうとは珍しい。何があった?」

夏澄に対して凛珠は言った。

「今の葉月一族について。お前なら知っているはずだ」

その言葉に夏澄の顔が引き締まった。

「その様子では、遭遇したか。誰にだ?」

夏澄の詰問に凛珠は答える。

「葉月 燈華といっていた。俺と同年代くらいで、小柄。金髪にエメラルドグリーンの可愛い顔した女の子だ。だが、見かけに反して、強大な癒しの異能をもっていた。……いったいあいつは何者だ?」

その言葉に夏澄は本当に驚いた様子で言った。

「お前があったのが。燈華だと……!?次の『柱』に、会ったというのか!?」

「それは何だ。どういうことだ!?説明しろ」

凛珠が言った。夏澄は言いたくなさそうだったが、しばらく黙っていた後、ため息をつき、言った。

「……彼女は、次代の『柱』だ。『柱』というのはその異能の力で、世界を支えるために選出される異能者のこと。諜報部の話では、次代が、彼女だと言っていた」

「なにそれ。もしかして……世界が世界であるための『ギセイ』ってやつか?」

修一が言った。

「そうだ。葉月一族は、これほど腐っていても、己が一族の役目は忘れないということだろうな。代々、二十年ごとに『柱』を選出し、ギセイにすることで、世界を保つ。そして、『柱』候補者は、幼いころより隔離されて育つらしい。そして、代替わりが近くなると、外の世界を回らせる」

「じゃあ……次が、燈華?」

千尋が確認するように言った。凛珠の顔は蒼白になっていた。彼女が、次代?じゃあ……。

「その次代の『柱』となる、燈華はすでに葉月一族の本邸に戻っている。代替わりが間近に迫っているからな。……さっきの話の続きだが、『柱』になれば、一生葉月一族の総本山にいることになる。そして『柱』を降りれば、死ぬ」

夏澄の言葉を凛珠は黙って聞いていたが、不意に顔をあげて言った。

「そんなのおかしいだろう!?世界のためなら、個人のことなんてどうなってもいいっていいのか!?」

「凛珠、落ち着け」

夏澄の言葉も聞かず、凛珠は叫んだ。

「落ち着けるか!!そんなのは俺にはとうてい納得できないね!!世界のためとか言って、一人の幸せを犠牲にするのか!?そんなのはおかしい!!」

そういうと凛珠は部屋を出て行った。

「……珍しいな」

凛珠が出て言ってから、しばらくして夏澄が言った。

「燈華にあってからの様子を見る限り……どうやら、燈華に惚れちゃったらしいですよ、あいつ」

千尋が言った。

「はあ!?ちょっとまて、それいったいどういうことだ?」

修一が本当に驚いた様子で言った。

「俗に言う一目惚れってやつじゃないのかな。本人は気付いていないみたいだけど。僕が気付いたのはあいつとは、まあ十年ぐらいの付き合いがあるからだし。……様子が、平常時とは全然別物だったし」

千尋が言った。

「まあ、あそこまでムキになったのは久しぶりに見たけど……。でもさ、本部長。僕も『柱』の話はおかしいと思うけどね。世界のためなら個人はどうだっていいってことなんじゃないのか」

「俺もそう思います……ケド」

修一の言葉に夏澄は目を細め、尋ねた。

「なぜ、そう思う?」

「だってさ……うまくは言えないけど、世界のために、個人を犠牲にして……そこまでする意味ってあるのか?そんなことをしてまで、世界を生きながらえさせる意味ってあるのかってことなんだけど」

修一の言葉に、夏澄は沈黙した。『あの人』も、そんなことを言っていた。

『みんなが幸せならば、個人の、一人の幸せはどうだっていいという話はあるか?どう考えても変だろう?俺は、それが正しいとは思えない』

葉月一族の役目について話していた時、『あの人』はそんなことを漏らしていた。

「で、どうするんですか、本部長?あの様子じゃ、葉月一族の本邸に殴りこみに行きかねませんよ。前にも似たようなことがあったじゃないですか」

千尋が言った。それは、今から三年前の話だ。ある出来事が原因で実際にあるところへ殴りこみに行き、そこを壊滅させた一件。

たった……十二歳の少年が引き起こした大惨事。千尋も、夏澄にも気付かれずに。二人が気付いたのは、すべてが終わった後。しばしの沈黙の後、夏澄は言った。

「……今回はそうはならないよう、こちらで最大限のことはするつもりだ。さあ、二人とも部屋へ戻れ。話があるのならば翌朝にしろ」

夏澄の言葉に二人は不満そうな様子だったが、しぶしぶ部屋を出て言った。

「……前と似たようなことになるか、そう、なるかもしれんな・・・」

夏澄の言葉は、誰にも聞かれることはなかった。




凛珠は本部内にある自室のベッドの上に寝転がっていた。マリンブルーの壁紙、黒色の机といす。真っ白なシーツと濃紺のベットカバー。適当に選んだため、統一感のない部屋。

――……世界のために一人の人生を使い捨てにするか。

 昔も似たようなことがあった気がする。いつのことかはわからないけれども。凛珠にとっては間違いなく嫌な記憶のひとつ・・・だろう。

 そのとき部屋のドアがノックされた。そして千尋と修一が入ってきた。

「俺は、入っていいなんて言っていないが」

部屋に入ってきた二人を見て、不機嫌そうに凛珠は言った。

「どうせ今のお前じゃ、いいなんて言わないだろう?お前は……葉月一族の本邸に殴りこみに行くつもりなんだろう?三年前と同じように」

千尋は、冷ややかな声音で言った。

「だったら、なんだ?止めるのか」

凛珠も負けず劣らず冷ややかな声音で言った。

「別にそうじゃない。今回のことは、いくら僕でも頭に来たからね。……腹が立つね、今回ばかりは」

千尋が静かなる声音で言った。たぶん内では相当怒っているだろう。

「誰かの『自由』を奪って、それで世界が成立するというのは間違っていると思うからね。……どこかに絶対からくりがあるだろうし、それを探しに行こう」

「ちょっと待て、どうやったらそんな発想が出てくるんだ?」

修一が千尋の言葉にツッコミをいれた。

「本部長の話の中にあっただろう?『柱』になった人は、葉月一族の総本山で残りの人生を過ごすとね。だとしたら、そこには絶対に何かあるだろうね。『柱』になるんだったらどっかの『神域』でもいいわけだし」

「……」

千尋の言葉に修一は何も言えなくなった。

「でも、葉月一族の本邸の場所って僕ら知らないよね。……本部長に泣きついてみる?教えてくださーいって」

「あの女があっさり言うわけないだろう。無理だ」

千尋の言葉を凛珠はあっさり却下した。

「……ソウは、現実主義者だな」

修一が言った。

「なぜそうなる?俺は事実を述べたまでだ。何年ここにいると思っている?」

不機嫌を隠さずに凛珠は言った。

「十年は軽く超えるからね。確か、三歳の誕生日が間近だったんじゃなかったけ?」

千尋が言った。そう自分たちが出会ったのは、がれきの山の中だった。




凛珠はあの日のことは克明に覚えている。

一人ぼっちだった自分を迎えに来た、『あの人』と千尋。

「たしか、三歳になる前だったよな。町一つ壊滅させた俺のことを『あの人』とおまえがさ、俺のことを迎えに来たのは」

懐かしそうに凛珠は言った。

「お前のことを迎えに行ったはいいものの、お前は散々だだこねて嫌がっていたけどな」

千尋がうんざり顔で言った。そう、あのときは連れて帰るのが大変だったのだ。



 町一つ壊滅させた、幼子。『あの人』に連れられた千尋が見たのは化けものと呼ばれていた、幼い凛珠の姿だった。涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにし、ふえふえと泣いていた。……さびしかった、らしいが……それで町一つ壊滅させるか普通とか思いつつ千尋はじっと凛珠のことを見た。

「……お前が、凛珠?」

当時、五歳になったばかりの千尋は三歳にも満たぬ幼子を見て言った。だが凛珠は泣くばかりで、答えない。蒼銀色の髪に海の色をした大きな瞳。小さくて、体温の高い子どもの体。

「一応迎えに来たんだけど……」

千尋は困り果てた。自分では抱き上げたり、背負ったりなんてはまだできない。それができる『あの人』は凛珠には興味なしと言った様子で壊滅させられた街を見ている。

「ちょっと、迎えに来たんだったら凛珠のことを抱き上げるなりおんぶしてあげたりするべきじゃないんですか」

千尋の言葉に、『あの人』は振り返って言った。

「そいつは自分で歩けるのだろう?何故甘やかす必要がある?」

「……ひどくないですか、それ」

千尋のささやかな抗議にも、『あの人』はどこ吹く風だった。

「俺はやさしくなどないからな。そのガキが『――』でもなかったら、俺は助けてなどやらん。それに助けるにしても今回一度きりだ。甘やかしてペーペーになっても困るからな」

千尋はその言葉に絶句した。自分で迎えに行くと言ってなんという言葉だ。ひどい。

「千尋、お前の心中が駄々漏れで聞こえてるぞ」

「は!?」

『あの人』がこともなげに言った言葉に千尋は驚いた。千尋は『あの人』の『異能』についてはそのころは全く知らなかったが。

「まあ、俺が迎えに行くと言ったのだから俺が連れて帰るべきか」

そういうと『あの人』は凛珠をあっさり抱き上げた。

「いつまでもメエメエ泣くな。お前は羊か?そんなに泣きたいなら牧場に行って羊と一緒に泣いてこい」

容赦なく『あの人』はいった。

「こんなバカげたことにならないよう、俺が鍛えてやる。後で、感謝しろよ?」

そう言って『あの人』は凛珠の頭をくしゃっとなでた。




「あの後、『あの人』に鍛えられたよね。短期間で基礎体力を徹底的に増強した後、一通りの武器の使い方と、力の使い方を教えてもらってさ。いや、めきめき強くなっていったよね」

千尋の言葉に凛珠は沈黙した。千尋の言葉にウソはないが、ないのだが。

―あの人相手だとそうならざるをえないよな……。

凛珠は『あの人』との修業時代を思い出していた。『あの人』はまさに鬼神のごとき強さを持っている。『異能』を使わずとも。

「燈華のことだけど、明日にしよう。このまま話し続けてたら徹夜してしまうからね」

千尋の言葉で凛珠は我に返った。

「ソウ、ひとつ言っておくけど、一人で殴りこみに行くなよ?いい加減にしないと僕だって、怒るからね」

そういうと千尋は部屋を出て言った。

「ていうか、場所もわかんねーのに、どうやって行くんだって話だよな。じゃあ、お休み」

そういうと修一も部屋を出て言った。凛珠はしばらく何か考え込んでいたが、明かりを消してベッドの中にもぐりこんだ。


翌朝 AM8:25

 凛珠は朝食を済ませるとすぐに本部長室に向かった。

「凛珠、お前に問う。本気で葉月一族に殴りこみを仕掛けるつもりか?」

夏澄は厳しいまなざしで言った。

「そのつもりだが。……お前は、止めるのか?」

夏澄はその言葉に首を振った。

「いや、『あの人』が、お前の好きにさせてやれと言ったのでな。・・・あと『あの人』からの伝言だ。『紅陽一族の本邸に行け。そこの当主は俺の知り合いだ。当主のあいつなら、葉月一族の本邸への行き方を教えてくれるだろう』だそうだ」

「……本当に『あの人』って何者なんだよ。で、紅陽の本邸ってどこにあるんだ?」

凛珠が尋ねた。

「こいつが教えてくれる」

そう言って夏澄がとりだしたのは赤の霊石と呼ばれる石だった。霊石とは、霊力を持った特殊な石だ。霊石の中には霊術を封じ込められるものもあるが全体として産出量は少ない。しかもその中では赤の霊石は希少価値が高く、めったにお目にかかれない代物である。

「転移の霊石か。なんでそんなものがある?」

霊石を触り、中に込められている術を感じ取った凛珠は尋ねた。

「こいつがなければ紅陽一族には入れんのでな。歩いていけるとでも思っていたのか?……こいつはな、『あの人』がだいぶ前に置いていった。必要な時が必ず来ると言ってな。たぶん、『現在(いま)』のためだろう」

「そうか」

凛珠は霊石を受け取った。凛珠は魔術、霊術、神術すべてを使えるため霊石を使った移動は苦もなく使える。

「ヒロとシュウを連れていくが、別に任務に支障はないな?」

凛珠の問いに夏澄は頷く。

「ああ。別にお前たちに回すほど厄介なのは入っていないからな……死ぬなよ」

「なんでそれが出てくる?俺は死なない。絶対にな」

凛珠はそう言い捨てると部屋を出て言った。


凛珠は千尋の部屋のドアを蹴飛ばして開けた。

「ヒロ、紅陽一族の本邸行くぞ」

いきなり入ってきた凛珠に驚き、読んでいた本を放り投げ、そして凛珠が言ったことに目をぱちくりさせている千尋に対し、凛珠は言い放った。

「はあ?なに、本部長がそうしろって言ったのかい?」

千尋が尋ねた。

「そう。……そこの当主が『あの人』の知り合いらしくてな。そこに行けば、葉月一族への生き方を教えてくれるとか言っていたらしい」

「ふーん……『あの人』が、ねえ……」

千尋はその言葉に少し考え込んだ。どこかが引っ掛かったらしい。

「まあ、あの人がそう言ったんだったらそうするべきだと思うけどね。他に誰連れて行くことにしたんだい?」

千尋の問いに、凛珠は即答した。

「後は、シュウだけだ」

「そう。ということは千里とか、昂也はおいてきぼりかい?」

千尋の問いに凛珠は沈黙した。『蒼き鳥』の中でも千尋ほどではないが、仲の良い友人二人は凛珠が勝手に出ていくことを知ったら怒るだろうし、葉月一族に殴りこみに行くと言ったら何が何でも止めるだろう。それもあるが、凛珠としてはあの二人を巻き込みたくはなかった。

「そうせざるを得ないだろう?あの二人の性格だったら、俺もやろうとしていることを知ったら何がなんでも、止める。それに・・・俺としては、巻き込みたくないんだ」

千尋は凛珠の言葉に納得したようだった。

「じゃあすぐに準備しないとね。シュウには言ったのかい?」

「……いや」

千尋は凛珠の言葉に呆れた様子で言った。

「早く行かないと、あいつ怒るんじゃないかな」




 その数時間後、凛珠は頭にできたたんこぶを濡れたタオルで冷やしていた。半ば涙目である。修一に自分の準備を済ませた後に教えに行ったら、修一が怒って凛珠の頭にガツンと一発を入れたせいだ。

「お前な、そういうのはとっとと教えるもんだろう?違うか?」

修一はものすごく怒っていた。当然といえば当然か。

「………ごめんなさい」

凛珠は意気消沈といった様子で言った。修一はその様子にため息をつくと、座っていた椅子から立ち上がった。

「で、ヒロのやつも準備はできたのか?」

そう言ってまとめられている荷物を肩にひっかける。

「多分」

凛珠はそういうと立ち上がり、部屋から出て言った。




 三人それぞれ荷物を持って中庭の噴水のところに集まった。

「この石で移動できるって?・・・なんで、あの人こんなもん持ってたんだ?」

修一が凛珠の手の上の霊石を見て言った。

「……シュウ、『あの人』のことで、その手のツッコミ入れないほうがいいよ」

千尋が言った。『あの人』に関しては、謎が多いのだ。知ろうとしても、わからない。それが『あの人』。千尋はもちろん『あの人』の名前は知っているが、公言禁止だし、素性はさっぱりわからない。夏澄ですら知らないのだから、これ以上はやめたほうがいいだろう。

「ふーん。あ、そ。でよ、凛珠。どうやって移動するんだ?俺霊術使えないからさっぱりなんだけど」

修一は魔術と神術に秀でてはいるが、霊術は全く使えない。逆に千尋は魔術がてんでだめである。全部使えるのは凛珠ぐらいらしい。あとは……『あの人』ぐらいか。

「簡単だ。端に石にかけられている術を発動するだけで済む」

そういうと凛珠は霊石にかけられていた術を発動させるために目を閉じた。




 眼をあけると広大な邸宅が目の前にあった。

「はーさすがは紅陽一族の本邸だね。でかい」

千尋が屋敷を仰ぎ見て言った。転移したことに関してはなれているので何も言わなかった。

「て言うか、不必要にでかくない?俺だったらちんまりした家のほうが好みだけどー」

修一が言った。

「別に今はお前の家の好みについて聞いている場合ではないとは思うがな」

「冷たいなお前!」

凛珠の言葉に修一は言った。凛珠はそれにさしたる反応も見せずに前方をじっと見ていた。そこには一人の女性がたっていた。

「お待ちしておりました。当主の元へご案内いたしますゆえ、どうぞこちらへ」

女性は優雅に一礼するといった。




「戩漓(せんり)のやつから聞いているぞ。お前たちは、次代の『柱』を助けるために葉月一族の本邸へ行きたいということだったな」

紅陽一族当主、紅陽秋也は三人を見て言った。

「その通りです。あなたなら葉月一族の本邸への行き方を知っていると。どうやって行くのか教えていただきたい」

千尋が言った。千尋はこういう場に異常なほど能力を発揮する。

「こちらがタダで教えるとでも?」

秋也の言葉に千尋はにっこりと笑って言った。

「そちらがその気ならば、こちらは実力行使に出させていただくだけです。いくらあなた方でも僕らを止めることなんてできない。違いますか?たとえ異能の名門だとしたとしても、僕らの『力』にはかなわない。・・・今の僕の言葉に、何か間違いはありますか?」

やんわりとした言葉だが、絶対的な力の差を千尋はつきつけた。こちらが三人でも、圧倒的な戦闘能力の差は出るのだ。

「……脅すつもりか」

「そちらに教える気がないのならば」

秋也は冷ややかな目で見たが、最後にはため息をつき、言った。

「しょうがないな。まったく、あいつはとんでもないのをよこしたものだ」

秋也の言葉に千尋は言った。

「それはどうも」

氷点下の声で千尋は言った。

「……まあいい。愛紀那」

秋也の声にこたえて姿を現したのは16歳ぐらいの少女だった。

「名前は紅陽 愛紀那。私の姪にあたる。葉月一族への道案内役だ。何せあの一族に行くには、いくつかの中継地点を経由しなければならない」

「うわ―すっげぇめんどくさいな」

修一が言った。

「部外者の俺たちがそんな一発で行けるとでも思っていたのか?馬鹿かお前は」

凛珠が辛辣に言った。

「あのね、ソウ。そういう言い方はないんじゃないの?」

千尋が言った。凛珠はその言葉にそっぽを向いた。その様子にため息をつくと千尋は、愛紀那に向かって言った。

「愛紀那さんですか。では、よろしくお願いします」

「はい!」

にっこりと笑って愛紀那はいった。

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