第3話 日曜参観
今日は日曜日。
だけど僕は小学校に妻の美紀と来ている。
そう、授業参観なのだ。
授業参観は二時間目と三時間目だけど、娘の
「美紅は三年二組よ」
校舎を見回していると母さんから声がかかる。
そしてどうやら三年生の教室は三階らしい。もちろん階段を上がらないとね。
その前に持参したスリッパに履き替えて、靴を袋へと入れて校舎内へと入る。階段を上ればすぐ近くにある教室が一組で、奥が二組のようだ。
ちょっと早めについたようで、まだ一時間目の算数の授業をしていた。
しばらくするとチャイムが鳴って休み時間に突入だ。
さっそく美紅が教室の窓からこちらを見つけて窓際に寄ってくる。
「お母さん! こっちこっち!」
「はいはい。美紅の席はどこかな?」
「えーっとね、真ん中のちょっと向こう側だよ!」
美紅の指さすほうをみると、そこには綺麗に並んだ机の中央辺りを指しているんだろうが、それだけしかわからない。
「うーんと、真ん中あたりね……?」
母さんが首をひねりながら無理やり納得しようとしていると、美紅の友達だろうか、一人の女の子が「ここだよ!」といって美紅の机をバンバンと叩いていた。
「あぁ、そこね。ありがとう」
「うん。ここだからね!」
もう場所はわかったが、それでも自分が教えたいのか、自分への席へと座って改めて自席を主張する美紅。
「はいはい」
休憩時間中に教室へと入ると、後ろの壁に児童たちの作品が張り付けられていた。
三年生からは習字を習うのか、『土』という字が書かれた半紙が張り付けられている。
左利きなので鉛筆は左手で握る美紅だけど、絵の具や書道の筆は右手で持って書くと聞いていたから、変な字になってやしないかと思ったが案外綺麗な字だった。
なかなかやるもんだなぁ。
さて、そうこうしているうちにチャイムが鳴り、二時間目の授業の始まりだ。
一人の児童が教室の前に立ったかと思うと、号令をかけた。
「起立!」
その児童の号令に、教室中の子どもが一斉に立ち上がる。
「これから、二時間目の勉強を、はじめます!」
『はじめます!』
合図とともに皆で唱和して授業が始まるようだ。
「礼」
そして最後の号令と共に、ほとんどの子どもが座り出す。
おいおい、礼はしないのか。一応やってる子もいるけど、『礼』は座る合図ではないはずだぞ。
「はい、今日は言葉遊びの勉強をしたいと思います」
先生の言葉と共に授業が始まる。どうやら国語の時間のようだ。
最近はノートパソコンを駆使して大型テレビへ映しての授業をやるようになっている。
いろいろと進化してるなぁと感心していると、美紅が座っている隣の男の子が筆箱を落としていた。
それに気が付いた美紅が拾ってあげているが、その男の子はまったく気づいていない。
美紅が拾いながらも『落ちたよ』と教えてあげたようだが、それでも男の子は一緒に拾うそぶりを見せず、あろうことか後ろにいる女の子と談笑を始めたではないか。
おいおい、うちの美紅に拾わせておいてその態度はなんだ。あとで体育館裏に呼び出されたいのか?
結局美紅が落ちた物を全部拾ってあげていた。
「はいこれ、わかる人!」
先生の掛け声とともに一斉に子供たちの手が半数ほど上がる。
「はーい……、じゃあ、美紅ちゃん!」
お、どうやら娘が当たったようだ。がんばれ!
「えーっと……」
元気よく手を上げていたはずなのに返事が芳しくない。どうしたんだ、美紅?
「ごめんなさい、忘れました……」
心配していたらどうやら手を挙げている間に忘れたらしい。
「あらら、じゃあ思い出したらまた教えてね」
寛容な先生もさすがに苦笑いだ。
それでも美紅はめげずに何度も元気よく手を上げていたけど、この一回以外は全部元気に答えることができていた。
うん。めげない美紅は偉いぞ。
気が付けば授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響いている。
これで国語の授業が終わりのようだ。
そして授業の始まりの時と同じようにして、一人の児童が教室の前に立つと。
「起立」
掛け声とともに皆が一斉に立ち上がり。
「これで、二時間目の勉強を、終わります! 礼!」
すると始まりの時とは違い、半分くらいの児童が礼をしているではないか。
うーん。始まりの時はなんだったんだろう。……いやそれでも半分なんだけど。
休み時間に突入したからか、数人の児童たちが教室後方の僕たちのいるところへとなだれ込んでくる。
美紅もいっしょになってこちらへと来たが、母さんへとそのまま抱き着いていた。
僕と言えば他の子どもの波に飲まれるのもあれなので、教室へと出て廊下へと避難することにする。
ふぅ。落ち着いた。
三時間目は音楽か。小学三年生でリコーダーが始まるけど、どこまで吹けるようになるのかな。
小学生だからソプラノリコーダーか。……もうどの穴を塞げば何の音が出るのか覚えてないな……。
そんな感慨に耽っているうちにまたチャイムが鳴った。
三時間目は廊下から見学していようかと思ったが、なんと美紅がこっちにやってきた。
「お父さん! こっちこっち」
そう言うと僕を教室の中へと引っ張っていく。
ははっ、しょうがないな。じゃあ父さんも、母さんと一緒に美紅の様子を見ますかね。
また教室へと戻ってきた僕と母さんの視線がぶつかる。
「おかえり」
「ただいま」
思わず同時に苦笑すると、自分の席へと戻る娘の背中へと二人で視線を注ぐのだった。
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