(青い鳥)
いつだったか、先輩がこんなことを言っていたことがある。
「藤本くん、幸せってどこにあるんだろうね?」
ぼくはカウンターで貸し出しノートをチェックする手をとめて、顔をあげた。
「……ペットショップに行けば、あるいは」
「購入可能?」
「頑丈な鳥かごも、いりそうですけど」
彼女は一冊の本を人さし指で傾けて、出したりしまったりしていた。
「どうして二人は青い鳥を逃がしちゃったんだろう?」
ひどく不思議そうに、先輩は言った。
「ようやく見つけたはずなのに」
「そりゃ、がんばってもう一度探しに行けってことでしょう」
「……あの話、わたしは好きじゃないな」
彼女はつぶやくように言った。
「あれは結局、幸せなんてどこにもないって話でしょ? あったって、気づけないんだから。それに青い鳥が幸せになるためには、そうするしかなかったんでしょうね。人の間にいたって、幸せを与えられないから」
本を元に戻すと、先輩はその背表紙を軽くつまはじいた。
「空の上なら、人は幸せになれるのかな……」
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