(ある日の図書室)
ある日のことだった。
ぼくはいつもと同じように放課後、先輩といっしょに図書室にいた。図書室はやはりいつもと同じように、ぼくと先輩の二人だけしかいなかった。
ぼくは返却された本を元の場所に戻したり、でたらめなところにでたらめに突っこまれた本を、正しい位置に戻したりしていた。本は大人しい子供のように、元の場所に戻るとじっとしていた。
本の整理をしているとき、いつも不思議な気持ちになった。ある種の感情や情報が、時間も空間も越えてこの場所に集まっている。それを、その本を書いた人間とは無関係のぼくがこうして整理している。それはなんというか、奇妙なことだった。つまり自分たちについても、それと同じことが起きているんじゃないか、という気にさせられてしまうのだ。
ぼくはそんなことを考えながら、いつもと同じように本の整理を続けた。そしてやはりぼくだけが仕事をして、先輩はカウンターのところにただ座っていた。
そんなふうに、それはいつもと同じ一日だったけど、いつもと違っていることが一つあった。
ぼくが本棚の間から出てくると、先輩は顔を上げてじっと窓の外を見つめていた。いつもなら彼女は手元の本に目を落としたまま、そこから顔を動かそうともしないのに――
ぼくは先輩の目線を追って、窓の向こうを眺めてみた。
そこには、きれいな五月の青空が広がっている。
「ねえ、藤本くん」
と、先輩は目線を動かそうともせずに言った。
「ちょっと屋上にのぼってみないかな――」
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