(ああ、そうか)

 そのセリフを口にしたとき、彼女は完全な真顔だった。そこには一欠片の冗談すら含まれてはいなかった。

 彼女はいわゆるというのではなかったし、自分のことを魔女と呼ぶタイプにも見えなかった。少なくとも、ぼくにとってはそうだった。

 だから〝魔女〟という言葉を聞いたとき、ぼくは少なからず驚いていた。その言葉を咀嚼して飲み下すのに、ほんの少しだけ余計に時間がかかる。

 けれど魔女という言葉を理解してしまうと、ぼくはやはりそれ以上の疑問を持たなかった。ああそうか、この人は魔女なんだな――

 ぼくは魔法の手引き書にも、魔女といういささかネジのゆるんだ言葉にも、彼女の真剣すぎる表情にも、あまりひくことはなかった。

 それよりぼくは、彼女の世界に対する無関心さを前面に押し出した態度や、常識から少々はずれた無口さや、フィルターを一枚通したような冷たい眼の理由が、何となく分かったような気がした。

 簡単に言うと、ぼくは納得したのだ。彼女がどうしてそんなふうなのか、ということを。魔女という言葉によって。

 ともあれ――

 これがぼく〝藤本望〟と、自称〝魔女〟の、はじめての出会いだった。

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