Quantum of Outcry
風祭繍
第1話
あなたは人に褒められる立派なことをしたのよ。
―――――
あの男は言った。
俺はそんな風に言ってもらわないと、自分の行動が『いい事』だったかどうかわからない、と。
私もそうだ。
少し前、いや、かなり前だったかもしれない。『自分で自分を褒めてあげたい』という言葉が流行語になったそうだ。
だが、その言葉が流行ったとは思えない。私の周りでその言葉を口にしたり、その言葉を実践している者は見られなかった。でも、信じてはいる。その言葉の意味を自らの血肉にしようとする者達は、むやみやたらにその言葉を口には出さない。きっと、仲間は生きている。
私達の生きる世界では、『自分で自分を褒める』という事が、それほど珍しい事態になってしまっているのだろうか?
自分で自分を褒めてはいけなかったのだろうか? 他人を叱る者達は、誰かを褒めることをしているはずではないのか? この点は考えても答えは出ない。問いかけても、きっと答えは帰って来ない。
この手の話に付き合ってくれるのは、あの男だけだった。
ところで、何でこんな話をしているかというと、これもあの男からのアドバイスによる。
何かを言葉にしたり、書き表していると、それによって思考が喚起されることもある。観察の道は自分も甚だ未熟であるが、何かをやってみることは決して無駄にはならない、と。
もしも暇だったら、少し付き合って欲しい。時間がある時でいいよ。
さて、何を表そうか……
魂の重さ、21グラム。
そんな言葉があるそうだ。
かなり昔に、一度だけ観測されたことがあるらしい。だが、これは相当に信ぴょう性を欠くようで、眉唾物だと捉えられている。私もその立場をとらせてもらう。
ところで、『質量が減る』という事態はどんなことに繋がるのだろう。私がどうにか学び取ったところでは、この世界の物質は不滅であるらしい。
質量保存の法則と、エネルギー保存の法則により、目の前から消えることがあっても、それは何らかのエネルギーに変換されるか、別の物質と反応したり、変化したりしている。完全に消え去るという事は無い。
書き忘れたけど、私は学校へ行った事が無い。
広島に落とされた原爆のことはまだまだ勉強中だが、ウラン235というものがおよそ50kg積まれており、そのうちのおよそ1kgが核分裂反応を起こした、とある。
おそらく、1kgとして存在した質量が熱エネルギーとなって放出された結果、とてつもない被害を生み出した、という事だろう。(※あいまいな知識によるものです)
とすると、たとえ21gであっても質量が失われるのは大変な事態ではないだろうか?
だが、これに関しても説明がつきそうなヒントをあの男から貰った。
この宇宙は常に膨張している、ということだ。何故それがわかったのか、私はまだ知らない。その時、彼の財布に入っていた紙幣の長さ、およそ15cm。それを使って一緒に考えていた。
もしも宇宙が膨張しているなら、この15cm という長さは、一秒ごとに長くなっている筈だ。つまり、昨日の15cmより、今日の15cmの方が長いという事になる。だが、15cmは15cmだ。これはいったいどういう事だろう?
そんなことを考えていたら何かが閃いた気がした。アインシュタインという人物が残した『相対性理論』というものだ。
この理論が成立した順番は『特殊相対性理論』が出来、その後に『一般相対性理論』が出来たそうだ。
『特殊』というのは、もしもこの宇宙で全く動かない一点があった場合、そこから見た宇宙はどういうものか、ということらしい。
『一般』というのは、宇宙ではあらゆるものが運動しており、そのあらゆるものに適した法則を導き出した、ということのようだ。
まあ、詳しい事はわからない。私は、まだまだなのだ。
だが、そこで導き出された有名な法則によると、この宇宙では光速を超える物質は存在しないようで、物質が光速に達した場合はエネルギーのみとなるらしい。
とすると、宇宙が膨張しているのに光速が一定というのは妙ではないか? 何でも宇宙の膨張速度は光速を超えるらしい。こうなるとますますわからない。
『閃いたこと』とは、『光の速度』というのは宇宙の膨張に合わせて相対的に速くなるものである、ということだ。 なんらかの尺度として存在しているのではないか、ということ。
仮に宇宙の中で動かない一点があったとすると、そこから見た現在の光速は、宇宙が誕生した時よりはるかに速くなっているという事になるのではないか? こうなると光というものには神秘を感じてしまう。
長々と頭の中を様子を述べてきたが、私の仮説はこうだ。
人が死んだ場合、人体の質量は何らかの形で光のエネルギーに変換され、人体から出て行く。
それが起こる場合でも、周囲の環境と本人の人生の状況により変換のされ方には差がある。
それが顕著に起こる事態は、不慮の事故、殺人、自殺のいずれかである。
何でこんな風に思うのかはわからない。私の場合、何かが突然答えに到達してしまう事が多い。当然間違いも多いが。だが、あの男もそうだと言ってくれた。だから、私は彼にたくさん話をしてもらいたいし、たくさん話したい。
私が何かを語ったり、答えたりすると、彼はいつも褒めてくれる。女の身としては照れる以上の何かを感じてしまう。
でも、人の死を思うのは心が痛い。彼も同じ感覚を持っているようだ。でも、私は……私達はここから目を背けることは出来ない。もう、後戻りはない。
(続くかも)
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