Valet Down

南かりょう

1章(00):紺碧の従戦機

 ――最初から分かってた。私を狩るのは、あなたしかいない。


<ジーア海岸Cブロック:競争エリア>


「話が違う……!」

 新兵のパイロットは、呻くように呟いた。

 ジーア海岸付近を低空飛行で探索し、必要な地形データを取ってくる。誰でも難なくこなせる、そんな簡単な任務だ。

 そのように教えてくれた部隊のエースパイロットは、戦死した。

 エースパイロットが搭乗する従戦機バレットは、今やただの鉄クズと化して、海に沈んでいく。助けを求めるように突き出された鋼鉄の右腕が、白波に浚われて、青の世界に塗り潰された。

 悪い冗談としか思えない。

 先程まで一緒に空を飛んでいたはずの仲間たちは、あの青い世界に呑み込まれた。

 目の前で滞空する、紺碧の従戦機。それが、すべての元凶だった。

 一切の無駄を省くように、最低限の装甲しか装備していない。武器も片刃の長刀だけで、銃火器の類は一切見られなかった。近接特化型の兵装など、遠距離戦闘が主体の現代では『死にたがり』の代名詞でもある。

 その『死にたがり』に、部隊は全滅させられた。

 モノアイの光が、まるでこちらを睨みつけるように強まる。

「……っ!」

 来る――そう感じ取った瞬間には、手遅れだった。

 紺碧の従戦機は、新兵が放つ銃弾の雨をかいくぐり、その長刀でコックピットを貫く。

 新兵の視界は、深い闇に支配された。



 ピコン!



『Attention! あなたの従戦機は大破しました。再出撃が可能になるまで――残り15:00』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る