社会人と小学生 4

 なかば強引に私はステージの上へと押し上げられてしまった。


 ステージの上には、若者たちが7人ほど。

 高校生の4人組と、大学生2人組、まだ若そうな社会人風の方。

 その中に一人だけ、いい年をした私がいる。これは場違いとしか言い様がない。


 このゲームは4人一組で行う事が多い。今は8人で2パーティー分と非常に切りの良い人数だ。

 人がもう少し多ければ辞退する事も出来るのだろうが、残念ながらそれは出来そうにない。

 ステージの下を眺めても、どうやらこのクエストに興味がある人は少ないようで、20人程しか集まっておらず寂しい限りだ。この人数では新たな参加者は現れないだろう。


 そして案の定、他の立候補者は現れる事は無く、高難度のクエストのチャレンジが始まった。



 まずは高校生4人組のパーティーがこのクエストに挑戦をする。

 始まる前に、軽くプレイヤー紹介をするのだが、高校生達のキャラクターはハンターレベル300程だった。

 たしかアナウンスでは高レベルのプレイヤーを求めていたはずだが、ハンターレベル300程でも大丈夫なのだろうか?


 周りの反応が気になり、ステージの下を見るのだが、他の人は気にしていない様子だ。スタッフの方々もまずまずの表情を浮かべている。

 このクエストは高難易度をうたっているが、どうやら初心者でも大丈夫らしい。


 プレイヤーの紹介が終わると、いよいよクエストが始まった。ターゲットは巨大なマンモスのようなモンスターで、困った事に私はまた余り戦っていないボスキャラだ。倒した数は少なく、せいぜい50体くらいだろう。一体を倒すのに10分かかるとすると、50体を倒すのにかかる時間は500分。およそ8.3時間となる。時間に換算すると意外と戦っているようだ……



 高校生達は一致団結して敵に挑む。ただ、その戦い方はあまり良いとは言えないモノだった。

 正面から強引に押し込もうとするのだが、強化されたボスキャラになぎ払われ、あっという間に全滅してしまった。受けるダメージが酷い事になっている。一撃で下手をすれば即死してしまうような、そんなバランスを無視したような設定だ。


 クエストに失敗してしまった高校生達は負け惜しみを言う。


「強すぎる」「アレは痛すぎる、難易度が酷い」


 そしていよいよ我々の番となった。



 高校生のチームの時と同じように、まずはプレイヤー紹介から始まる。

 社会人の方は、ハンターレベル400程。

 大学生の二人組は、ハンターレベル700程。

 そして私は、ハンターレベル999であった。


 私のプレイヤーが紹介されると、会場がらざわめきが起こった。そんなに珍しい事なのだろうか?

 クラスの友人達は900代でも珍しくないのだが、どうやら世間的には意外と稀らしい。


 ちなみに私のキャラクター名は『スズガヤ』であり、本名である。

 このゲームを買った当初、キャラクターの制作の時に文字の入力が分らず、せいりゅうくんにそのやり方を教えて貰おうとしたときだ。なにげなくゲーム機を渡したら、この名前を入れられてしまった。ネットを経由してゲームをやる予定は全くなかったので、気にもしなかったが、こんな事になるのならちゃんとしたキャラクター名を付けておくべきだった。もう今となっては何もかも遅いが……



 さて、気を取り直してクエストに集中する。

 まずは他のプレイヤーの武器の種類の確認を行う。

 どうやら他のプレイヤーは大型の武器を使うらしい。


 このゲームでは、いくつかの武器の種類があり、プレイヤーはその中から自由に選択が出来る。

 基本的には動作の大きな大型の武器は、扱いが難しいので、見返りとしてダメージが大きい。


 私のキャラクターは既にレベルが高く注目を集めているようなので、これ以上は目立ちたくはない。

 初心者向けの、短剣と盾のセットを選ぶ。この武器の特徴はダメージは非常に低いが、扱いが楽なので何かと便利な武器だ。しかしアクションは貧相で、ギャラリーはどうしても大型の武器の派手な方に目を奪われるだろう。しかし私は脇役として、周りでちょこちょこと動き回り、目立たないぐらいでちょうど良い。



 武器の選択が終わるといよいよクエストへと突入する。

 我々のパーティーは雪の中を進む。雪原を抜け、氷の洞窟を抜けると、猛吹雪の崖の上の山頂へとたどり着いた。そしてそこにはマンモスのような巨大なボスキャラがそびえている。


 ボスキャラは我々を見るなり、襲いかかってきた。警戒はしていたもののスピードがかなり速い、仲間の二人が吹き飛ばされ、体力が全て削られた。これはいくらなんでもダメージが大きすぎやしないだろうか。だが、このゲームでは救済処置とも言えるルールがある。ドッチボールで味方に当たった球が地面に付く前にキャッチすればセーフになるように、吹き飛ばされた仲間が地面に着地する前に回復薬を使い体力を回復させる事ができれば、死亡にはならない。

 私は反射的に回復材を使い、仲間の死亡判定は免れた。しかしこの状況はいただけない、まずは閃光爆弾を使い、相手の視力を奪う。

 目が見えなくなった相手は闇雲に暴れる。その間にこちらは距離を取り体勢を整えた。


 まずはボスと我々の間に落とし穴を設置する。マンモスを落とす落とし穴などといったら、掘るのにいったい何日かかるか分らない。現代の技術を用いパワーショベルを使ったとしても丸一日ぐらいはかかりそうだが、どういった理屈かは分らないがこのゲームでは5秒もあれば設置できる。


 しばらくするとボスが視力が回復し、我々めがけて突進をしてくる。そして案の定、落とし穴にハマった。

 落とし穴にハマっている所を我々は袋叩きにする。私の武器は威力こそ低いが麻痺性の毒が塗ってあるらしく、相手は落とし穴の中で麻痺をした。

 もちろん、我々は麻痺した相手を気遣い無く殴り続ける。このゲームに慈悲は無い。


 その後、この落とし穴による攻撃は10回以上続いた。

 途中、なんどか仲間が吹き飛ばされて死にかけたが、これは私が瞬時に回復薬を使うことで乗り切れる。


 そして開始20分を過ぎた頃にボスを倒す事に成功する。

 周りを見渡すと、スタッフの方は苦々しい表情に見えた。ギャラリーもあまり楽しめなかったようだが、我々プレイヤーにはそんな事は関係ない。楽にボスさえ倒せればそれで構わないのである。



 プレイが一通り終えると、ささやかな表彰式が用意されていた。

 参加賞が配られた後に、MVP賞のプレイヤーの発表がされる。


 MVPとは、最大の貢献者が受賞するべきだろう。おそらく一番ダメージを与えたプレイヤーが該当するはずなので、私が受賞する確率は無いだろう。

 しかしなんとMVPには私が選ばれた。なんでも仲間へのサポートと落とし穴によるやり方が評価されたらしい。いつもやっている事なので気にしなかったが、何が評価されるか分らないものだ。


 そしてMVP賞が授与される。その賞品はゲーム内で出てきた1/1スケールの『勇者の剣と盾』のオブジェだった。この置き場所に困る置物は、卑怯な方法でボスを倒した私への最大の嫌がらせかもしれない。


 スタッフからオブジェを手渡しで渡される。照れ笑いを浮かべながらステージの下を見ると、いつの間にかせいりゅうくんとようたくんがそこには居て、目があった。しっかりと見られてしまったようだ……


 ステージを降りた私はせいりゅうくんとようたくんと合流すると、イベント会場を後にする。

 この日は疲れた。遊びのハズなのにステージに上がり、余計な心労を抱え込んでしまった。

 まあ、もうこういった特別なことにはもう起こらないだろう。プレイ時間は少し長いが、私はどこにでもいる普通の腕前のプレイヤーなのだから。




 翌日、学校で噂が立つ。


『勇者の剣と盾を実際にもっている、凄腕の伝説のプレイヤーがいるらしい』と……


 よくない噂とは一人歩きをするものかもしれない。

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