修学旅行 5

 我々は二日目の朝を迎えた。


 旅館の大食堂には既に朝食が用意されていて、少々早めの朝食を頂いている。

 窓の外には湯ノ湖と鮮やかな紅葉こうようが存在するのだが、クラスメイト達は朝食バイキングの方に夢中で、この景色には目もくれていない。


 育ち盛りの小学生の食欲はすさまじい。ご飯を盛大によそり豚の角煮やもつ煮込み、レバニラ炒めなど、味の濃いおかずを用い口の中にかっこんでいく。中でもようたくんはご飯を食べつつ、あいまに生クリームがのっかっている小さなケーキも食べている。

 朝っぱらからよくあのような甘い物が食べられるものだ。

 そう感心しているときりんちゃんもそれなりの量のケーキを皿にたずさえて持ってきた。


 食後、すぐにハイキングに出かけるというのにあんな量を食べても平気なのだろうか?

 それにあの取り合わせはいかがなものだろう。

 歳を取るとああいったことはとても真似できそうにない。

 私はいったん、窓の外の風景がのような景色を見ようとすると、美和子先生が山盛りのケーキを頬張っていた。まだ若いということなのだろうか……


 気を取り直して再び窓の方へと視線を移す。

 空には雲一つなく、今日は天気がすこぶるよさそうだ。



 今日の予定は忙しい。ハイキングに始まり、文化財の見学など様々な予定が目白押めじろおしである。

 昨日の渋滞に巻き込まれた損失のすべてを取り戻すように、逐一ちくいち動き周り、そのあと帰路に着く手はずとなっている。


 これからかなりの激務が予想されるのだが、私は少々寝不足だ。昨日の夜はやたらと寝づらかった。両側にせいりゅうくんとようたくんがピタりと寄り添い、寝返りもままならないような状態が続いた。

 その原因は就寝をする少し前、時間を持て余した子供達に華厳の滝の自殺者の話しをしてしまった事に由来ゆらいする。


 私はただ華厳の滝にまつわる事実を淡々と話しただけだったのだが、それがかえって子供達の想像力をかき立てて怖さを増したようである。それは私の予想を超えてしまったらしく、クラスメイトが夜中にトイレに行く度に起こされて付き添いをする事となった。ちょっとした話しの種になればと思っていたのだが、どうやらこれは失敗してしまったようだ。顰蹙ひんしゅくを買い、子供達に問い詰められて、お詫びのお菓子をおごらされるハメとなった。仕方ないので後ほど日光の名物の一口羊羹でも差し入れる予定だ。

 しかし恐怖心よりも、お菓子の魅惑の方が上回ってしまうあたりがなんとも現金なものである。



 そういえば、華厳の滝の写真を見直している時、心霊写真に見えるようなものを見つけようとしたのだが、残念ながらそいうった写真は見当たらなかった。水しぶきなどは、人の顔に見えそうなものだが、やはり水しぶきは水しぶきにしか見えない。

 自殺者は40人を越えるそうなので、ひとりくらいは映り込んでもよさそうなのだが、ごった返した観光客が嫌いなのか、どうやらこの時は顔をだしてくれなかったようだ。


 食後は身支度を済ませ、旅館を出発する準備を行う。

 旅館の温泉にゆっくりと浸かれなかったことが唯一の心残りだ。入浴の時はクラスメイト達ははしゃぎにはしゃいで情緒を感じる余裕などはこれっぽっちもなかった。もう少し自分たちの振る舞いが他人がどうとらえられるか考えて欲しい所もあるが、私も華厳の滝の話しでやらかしてしまったので、あまり人様の事は言えないかもしれない。


 荷造りが終わると我々はハイキングへと挑む。

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