夏休みの宿題

 もうじき長かった夏休みが終わる。

 しかし2学期を迎える前にやらなければならない仕事があった。

 私は厄介な宿題を片さねばならない。


 小学生にはつきものの『読書感想文』に取りかかる。



 読書感想文を書くに当たって最も重要な点は『どの本を選ぶか』という事だろう。

 これによって書くテーマが大きく決まってしまう。

 それなりの読書感想文を書くには、優れた書籍が必要だ。


 しかし夏休みに私が読んだ本といえば、二級建築士の参考書と問題集ぐらいで、これらの書籍で感想を書く事は不可能と言っても構わない。

 感想文に、「構造力学の公式に感銘を受けました」などと書いても、だれも共感はしないだろう。


 実は釣りの合間あいまに読書感想文の本を読むつもりだったが、忙しくてそれどころではなかった。

 流行の推理小説ですでに読んだ本はあることにはあるのだが、これが内容が少し変わっている。

 いまから別の本を読んでもいいのだが、面倒なのでこの本に関して読書感想文を書く事にした。



 まずは本の内容を整理してみる。

 物語の概要をかいつまんで箇条書きにしてみる事にした。


・ニュージーランドに実在する丘がスタート地点だ。

 ちなみにこの地名は本の題名にも使われている。


・その場所には一軒家が建っていて、老夫婦が住んでいる。


・その老夫婦は、世界一有名な印象派の画家の絵に、とてつもない暗号が隠されている事を偶然に知る。


・そして暗号文の解き方を編み出し、数々の作品からヒントを得て、最終的に人類の英知の結晶ともいえる『パンドラの箱』を入手する。


・老夫婦は全てのことわりを知るのだが、おじいさんがその力を使い世界征服を企てる。


・力を得たおじいさんを止められるのは、同じく力を得たおばあさんだけ。


・おばあさんは、おじいさんを阻止するために世界を掛けた夫婦喧嘩を始める。



 といった内容だ。


 終盤では『おじいさんが軍のコンピューターにハッキングをして、全世界に核弾頭を降らせる。それに対抗すべく、おばあさんが魔方陣を描き、エイリアンを召喚してUFOから怪光線を放ち核弾頭を破壊する。そして地球上からすべての核兵器が無くなり世界平和が訪れる』という感動のクライマックスが用意されているのだが、この部分は大いにネタバレを含むので、感想文に入れる事を控えた方がよさそうだ。推理小説でのネタバレほど最低な行為はないだろう。



 さて、概要をまとめた後、いよいよ感想文を書くとこにする。


 その前に、よい感想文の書き方をネットで調べる事にした。

 ちょうどよくまとまったサイトがあったので除いてみると、以下のようなアドバイスが記述されている。


・どのような内容か、分りやすく興味を引くような説明を。

・他の人が読みたくなるような面白い点を解説。なぜ、どのように面白いのか具体的に、人に伝わるように。

・この本に触れて、自分はどう思い何を考えたのか。なにか心に響く点はあったのか。


 ……意外とハードルが高そうだ。



 この話しを上手くまとめられるか分らないが、まずは夏休みに入る前に配られた読書感想文用の原稿用紙を取り出す。


 するとどうだろう、見慣れた400字詰めの原稿用紙より、かなりマス目が大きい。

 どうやら小学生用の原稿用紙らしく、枠を数えてみると12×12マスの144字しかなかった。

 書く分量が少ないのは普段ならありがたいのだが、この文字数でまとめきれるだろうか……



 まずは本の題名を書かなくてはならない。ちなみに、この地名はニュージーランドに実在するという。


『タウマタファカタンギハンガコアウアウオタマテアトゥリプカカピキマウンガホロヌクポカイフェヌアキタナタフの丘。』


 ……144字の枠の中で、54文字が使われた。


 つづいて世界一有名とも言える、印象派の画家の名前をフルネームで入れる。

 ちなみに本の中でも必ずフルネームでしか記載されていないので、私もそれにならい正確に記す事にした。


『パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・シプリアーノ・デ・ラ・サンテシマ・トリニダット・ルイス・イ・ピカソ』


 ここで84文字の枠を失った。

 残りの枠を数えるともう6文字しか残されていない。


 悩んだあげく、次の6文字で埋める事にした。


「ピカソ『の謎が面白い』」



 子供の頃は感想文の枠を埋める作業が大変だったが、大人になってみると逆に枠の少なさに悩まされるとは思いもよらなかった。やはり作文というのは難しい、この本の面白さが伝わっていない気がするが、これ以上枠がないので仕方がない。


 こうして感想文が書き終わり、本の題名と画家の名前に間違えが無いか5度ほど見直すのだが。

 なぜだか『ふっかつのじゅもん』を必死に書き写している昔の私を思い出した。



========================後書き========================


読書感想文、本文。


123456789101112


タウマタファカタンギハン  1

ガコアウアウオタマテアト  2

ゥリプカカピキマウンガホ  3

ロヌクポカイフェヌアキタ  4

ナタフの丘。パブロ・ディ  5

エゴ・ホセ・フランシスコ  6

・デ・パウラ・ファン・ネ  7

ポムセノ・マリア・デ・ロ  8

ス・レメディオス・シプリ  9

アーノ・デ・ラ・サンテシ  10

マ・トリニダット・ルイス  11

・イ・ピカソの謎が面白い  12


こんな感じになりました。

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