梅雨のある日 1
空は薄暗く今日も雨が降る、どうしてもこの時期は滅入ってしまう。
教室の窓から見える川は濁っていて、荒々しく流れている。水量は普段の倍以上はあるだろうか。
生徒達も昼休みに外に出られず憂鬱そうだ。
こういった時には読書にでも興じれば良いのだろうが、この年齢の子供達には少し早いのか、あまり本には興味がないようだ。
何もやることがなく、手持ち無沙汰のせいりゅうくんが、
「今日は何をして遊ぼうか?」
はやくも放課後の話題を振ってくる。
私は「この間買ったゲームの続きでもしてはいかがです?」と提案するが。
「もう飽きた」とあっさりと却下されてしまった。
ここで話が変な方向へと動き出す。
ようたくんが、
「おじさんの家で遊べない?」
と、言い出した。
「うちですか? 何もありませんが、それでも良ければ」
するとせいりゅうくんが、余計な事を言い出す。
「今日、おっさんの家で遊ぶんだけど、他に来るやつは居ない?」
その話に、そばに居たきりんちゃんと、ゆめちゃんと、のりとくんが乗ってきた。
「わたしも行きたい」「僕も行く」
「じゃあ、放課後いっしょに遊ぼうぜ」
とせいりゅうくんが勝手に仕切る。
こうして突然に、我が家を視察団が訪れる事となった。
そして午後の授業を終え、放課後を迎える。
視察団のご一行を束ねて、雨の中、我が家へと出発をした。
私の黒い大きな紳士傘の後を、黄色い傘が揺れながら付いてくる。
田舎の舗装があまり良くない道は、ところどころに大きな水たまりができている。
私は子供達に気を使い水たまりをよけて歩くのだが、うしろの一行はその気遣いをあえて無視するように、わざわざ水たまりの中へと突入していく。バシャバシャと威勢の良い音が聞こえてくる。
子供達はこんな状況でも楽しむ事を忘れないらしい。私もそれに習い少し視線を上げ、道端のアジサイの花を見入る。
しばらく目を離していると、のりとくんがどこからかカタツムリを持ってきた。
子供達はこぞってあのヌメリとした肌に触れるのだが、私はいつからかナメクジのようなあの生き物には触れなくなっていた。
食べ物などは大人になれば克服できる物も多いが、こういった虫の類いはなぜだか大人のほうが苦手になっていく。不思議な事もあるものだ。
「カタツムリをもと居た場所に返してあげなさい」
私が子供達をさとすように言う。
するとせいりゅうくんは、
「おっさん、カタツムリが苦手なんだな」
なぜだかこういった感が鋭い。
「そんな事、ないですよ」
と否定をするが、カタツムリを顔の間近にもってこられると、表情に出てしまう。
「じゃあ、さわって見てよ」
「また、今度の機会にします」
そういって私は距離を取る。
「ほらほら、さわって」
と、せいりゅうくんはしつこく迫ってきた。
その気になれば、右手のカタツムリをはたき落とす事もできるが、一寸の虫にも五分の魂、そんな事はできるはずもない。
私はカタツムリの殻をつかみ、彼らの届かない高い木の葉の上へと逃がした。
せいりゅうくんはすこし不服そうな顔をしていたが、
「あまりいじり回すと、弱って死んでしまいますよ」
そう言ってたしなめると。
「わかったよ」
と、理解を示してくれた。
いつもより5分ほど余計に時間を掛けた後、無事に我が家へと到着した。
しかし、殻の付いているカタツムリでよかった、あれがおぞましいナメクジだったら我が家への案内を放りだして逃げ出していたかもしれない。
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