第2章 37(+1)歳おっさん、職業小学生

始業式

 春休みが開ける。私は休暇中に一つ歳とり38歳となってしまった。


 始業式という事もあり、すこし明るめの春を意識した派手目のネクタイを着け、クリーニングに出しておいたアイロンのきちっと掛かったスーツに袖を通す。

 久しぶりに学校へと登校すると校門の桜はだいぶ散っていて、ところどころから若葉がのぞいている。

 まだ残っていた桜の花びらが、はらはらと舞っていた。


 校舎に入り教室へと向かうのだが、いつもの二つほど隣の教室へと移動する。

 学年がひとつ上がり、今日からは6年生だ。



 学年が上がったからとはいえ、やることは大して変わらない。

 美和子みわこ先生がいつもの様にやってきて挨拶をする。


 「おはようございます。今日から6年生になりました

 最高学年なので、ほかの学年の子たちの模範となるように、しっかりやっていきましょう」


 「はーい」

 これまたいつもの様に元気な返事が返ってくるが、本当に自覚しているのかは怪しいものがある。


 「それではこれから始業式です、みなさん校庭へいきましょう」


 そういって校庭へと移動する。


 その日は、始業式だけで終わる。

 校長先生がなにやらありがたいような話をしていた気がするが、この歳になっても不思議とこの手の話は頭に入ってこなかった。



 さて、6年生になって早々に遠足が行われる。どうやら親睦しんぼくを深める意味合いがあるらしい。

 こういった事は、できれば私が入学したときにでもやって欲しかった。そうすればもう少し早くクラスになじめたかもしれない。


 しかし私は転入生として入ってきたので、転入生が入ってくるたびに遠足を行っていたら大変な事になるだろう。子供達は喜ぶかもしれないが、授業は大いにとどこおる。



 帰り際に、せいりゅうくんからお誘いを受ける。

「おっさん、明日の遠足のおやつ買いにいこうぜ」


「いいですよ、たしか400円まででしたね。駅前のスーパーにでも行きますか」


 ようたくんからも、買い物の後のお誘いを受ける。

「その後は『モンスターハンティング ダブルエックス』やろうよ」


「いいですよ、先日負けた隠しボスでもまた挑みますか」


 ゲームの方も『モンスターハンティング エックス』から

『モンスターハンティング ダブルエックス』へと、ひとつ歳を重ねていた。


 こうして少しずつ、人とゲームは成長するのかもしれない。



 なお、この新しいゲームは文部科学省の方から小包で送られてきた。

 小包の品名に『接待用品』と書かれていたのを見た時は、いったい何がはいっているのかと困惑したものだ。


 このゲーム、おそらく稟議りんぎなどはちゃんと掛けているのだろう。今年も桐原きりはらさんに色々と引っかき回されそうだ。

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