異世界でキャバクラ始めました

エスプライサー

なんやかんやで異世界に

……。

ご多分に漏れず、異世界転生したらしい。


なんやかんやありつつも、1ヶ月住んでればこっちの世界の生活にも慣れてきた。

最初はそれなりに戸惑いもしたが、死んだ瞬間がなかなかにショッキングで無念極まりなかったので、異世界生活の新鮮な驚きもどこか上の空といった感じである。

……ふぅ。

安っぽくて狭っくるしい机に頬杖をついて、ぼんやりと店内を眺める。

束の間の休日に、俺は同僚のリザードマンの男とメイド喫茶に来ていた。

「1回だけ! 1回来れば分かっから!」

そういう触れ込みもあって、興味もなくはなかったので来てみたが。


これが、……まぁ酷い。

日本のメイド喫茶に行ったことは無かったが、メイド喫茶とはこれが普通なのか?

正直な話、1回来ただけで2度と来ないことを悟った。

飯も酒も不味いわ、接客の質も低い。挙げ句入国料などと訳のわからない名目で金を取られて踏んだり蹴ったりな気分である。

店内が暗くなり、どこからともなくサイリウムを手渡され、少しするとサイリウム代を記載した伝票がしれっとテーブルの端に置かれた。

こんなんだったら明朗会計を謳っているキャバクラの方が断然いい。

一応、ケモミミ、エルフ、ハーピィなどなど、メイドのカテゴリーだけは豊富に取り揃えてはいるが、美しさに定評のある種族であってもまるで狙ったかのようにクソブスを雇っているようで、さながら妖怪大戦争のごとき様相を呈している。

笑顔で追加注文を取りに来た顔面がグチャっているメドゥーサのメイドに向かって首を横に振ると、頭の蛇が一斉に舌打ちをする。


……はぁ。

ステージ前で我を忘れてサイリウムを振っている同僚の背中を見て、せつなくなる。

暗い店の中、スポットライトを浴びて踊っている人間のメイドは、顔だけはまぁ可愛い部類に入るだろうが、年齢は30台ど真ん中なこと間違いなく、首回りと二の腕、脚の肉付きが勤労に励むメイドのそれではない。

リザードマンの彼的には、ひょっとすると性欲ではなく食欲に突き動かされているのではないか、と淡い期待を抱く。

……目を爛々と輝かせてステージ上の彼女を見つめる同僚のにやけた横顔を見て、現実の苦さに顔をしかめる。

哀しいことから目を背けようとして(そもそもこの異世界生活は現実なのか、まだ定かではないのだが)、ここ1ヶ月のことについて物思いに耽ってみる。

事の発端は、上京初日の五反田から始まる。

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