論説 ゲームセンターとベルクマン

宮脇シャクガ

2016年7月のこと

 ゲームは進化すると言えばみなさんはどう思うだろうか?


いまいちピンとこない、或いは一笑に付す。逆にすごくよく

わかるという人まで様々だと思われる。

では、それを作り出す会社や受け手であるプレイヤー、置き

場所や動作環境による制約等から否応なく適応し続けなければ

ならない淘汰圧を受けていると言い変えればいいだろうか。

みなさんが普段何気なく目にしているものは苛烈な生存競争を

勝ち残った勝者たちの姿なのである。


 ゲームと一口に言っても、現在ではその種類、目的、対象が

本当に様々であるので、今回はゲームの進化が如実にみられる

場所としてゲーム注1センター、観察対象としていわゆ

る商業用ゲーム機を選ぶことにする。

(この原稿の中では商業用ゲーム機を販売者及び購入者や賃貸先

が企業、法人であり、購入者等が主に営利目的で他者にサービス

を提供することを主目的とするものと定義する)



 さて、実際に観察に出かけてみよう。

今回は私の最寄りのゲームセンターである某所を例にする。

立地条件はいわゆる郊外型大型施設で、テナントを共有している

のはドラッグストア、スポーツジム、ネットカフェ、車関連ショ

ップで、近くに食べるところがあり、駐車場は場外含めて200

~300台駐車可能。

また、国立大学から車で20分ほど、付近に高校、カードショップ、

ベッドタウンがあり、申し分のない条件に見える。


 店内に入ってみると右側に音ゲー、自販機、休憩コーナーがあり

隙間に幼児用の筐体がある。入口が部屋の右奥にあたり、壁一つ隔

ててジムがあるので、水回り、入ってすぐ探す場所、トイレ、大き

な音の出るコーナーがあり、ジムの行き帰りにちょっとの間、小さ

なお子さんを連れた家族がいっしょにプレイすることを狙っている

と思われる。

まるで草木のニッチ注2の様で面白い。


店内入ってまっすぐはいわゆるキャッチャーとプリクラコーナーだが

ここは回転率や利益率とは別に大人の事情も多少ありと思われる。

というのも、キャッチャー系の3強、タイトー、アトラスそしてセガ

なしには現在のゲームセンターは考えられないからである。

進化の次の課程に進むためには基本的には在りものを使ったり、継ぎ

足したりして周囲に適応する。歴史あるものに継ぎ足して拡張した結果

がこのような配置なのだろう。

人間の脳で言うと、トカゲの脳の周りにイヌの脳があり、最外部がヒト

の脳となっていることと相同である。文物に歴史在りだ。


タイトー(現スクウェア=エニックス傘下)、アトラス(現セガ傘下、

プリクラとキャッチャーは現在もアトラス名義の様である)

セガ(現在セガサミーHDグループ、家庭用ゲーム機から完全撤退した

代わりに主要なネットワーク対戦型商業用ゲーム機にはだいたい関わっ

ている)


さて、お楽しみの左奥である。

部屋の構造上一番大きくスペースのとれる花形であり、目抜きである。

大型筐体が数多く置かれており、空間が贅沢に使われている。

通路は広めにとられており、音量は大きめである。

ここではベルク注3マンの法則のような環境適応がみられる。

即ち、空間と電力という有限の資源を奪い合う容赦なき戦いである。

問題を簡単にするために消費電力は同世代なら面積の2乗に比例する

と仮定する。となると、どうなるか。


まず、特に理由がない限り旧世代が淘汰される。

次に、上方向にどんどん伸びていく。

電力を消費せずに、より遠くから見つけてもらうことができるからだ。

大きく、強く。いわゆる恐竜的進化である。


勝ち残った人気コンテンツにはお店からの支援もある。

プレイ人数が多くなるほど待ち時間が長くなり、その間の機会逸失が

生まれるからだ。


そして、なにより価格。

商業用ゲーム機なのだから初期費用と維持費用は非常に重要である。

その点で恐ろしいコンテンツが登場した。


艦これ注4アーケードである。

筐体的には10年前の枯れた技術の組み合わせで作られた堅牢さと

整備性の良さ、直感的になんとなくわかる操作、人気のキャラクター

そしてなにより初期費用が他の筐体の約10分の1なのである。

お店としては導入しない手はないなと待ち時間に考えた。

別のゲームの告知があった場所にどんどん進出していき、艦これの

のぼりが立ち、キャッチャーの景品も合わせて変わっていき、待ち

時間席の周辺が少しずつ整備されていった。

お店の協力とプレイヤーの有志による自治で他店では聞く被害や問題

もほとんど起こらなかった。

この幸せな状況はいつまでも続くかのように思えた……。

長い待ち時間、それは約束された幸福へと歩む階段だったのだ。

(7月某日)



しかし、この原稿を進めているうちにも大きく状況は変わった。

大きくて鈍重な奴が大口を開けて待ち構えている間に世界中

に遍在する小さくて黄色い奴がうまいことやったのだ。


それはちょうど家庭用ゲーム機がより速く、より高く、より

強くを目指している間に、全く別の次元から攻め込んできた

151の怪物と重なるのである。

まるで恐竜の卵を食べた小さな小さな哺乳類(プレデター)のように。



と、今やすっかり人の少なくなってしまった待ち時間用にお店から

提供されている席で考えた。

7月22日の夕方。


それはポケモ注5ンGo!が世界を変えてしまった後の夕暮れ。

ゲームセンターの迎える落日の始まり。

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