第3話 役者そろう?
先生と彼の遭遇があんな感じになるなんて想像してもいなかった。
だから、これからどうなるのかなと不安しかなかった。
こんなことになるなんて、予想もできなかった。
薬をもらって買い物をすませると、彼は私に荷物を持たせることなく家へと一緒に帰宅した。
持たせてもらえなかったのが少し嬉しいようで、複雑な気分になった。
ようやく、帰宅すると、彼はさっさと歩いて冷蔵庫に買ってきた野菜などをいれていった。
少しでも手伝いがしたくて、目に付いたアイスを冷凍室にいれると、呆れた顔をされた。
「疲れた顔をしてるのに何をしている、貴様は休んでいろ」
そういわれたので仕方なくソファーに座る。
確かに、座った途端どっと疲れがあふれ出して全身が重く感じた。
予想以上に、疲れていたことにこのときようやく気づいた。
それはそうだ、薬をもらったらすぐ帰ってきていたし、先生とあそこまでじっくり話し込めるほど精神状態が安定したことはない。
全部、彼がきたからだ。
恨みはしないし、怒りもないが、自分への情けなさがひどかった。
こうまで他人にたよらなければ一般的な生活も遅れないほど、私の心と体は壊れてしまったのかと嘆きたくなった。
じんわりと涙がにじみ出る。
すると、彼がとなりにどかっと座り、私の頭を掴んで横倒しにすると膝枕のしているような状態にして私を寝かせた。
「あの医師がくるまで貴様はおとなしくしていろ」
寝ていろということらしい。
それと余計なことを考えるなという感じにも聞こえた。
どうしてこんなに、優しくしてくれるんだろう、何もできないだめな存在の私に。
「だめかどうかを自分で決めるな、というかその発想はやめろ! 私に失礼ではないか! もっと誇れといっただろうが!」
頬をつねられた、ちょっと痛い。
でも、夢ではないんだな、とまた実感して泣きそうになった。
幸せな夢続きすぎていて、自分では受け止めきれないのだと泣きそうだ。
いや、すでに私は泣いている、ああ、彼の膝を汚してしまった、怒られちゃう。
「阿呆、そんなことで怒る程、度量が小さいと思うか」
いつのまにか用意されていたタオルで私の目が覆われる。
「冷やせ、泣きはらすと痛いだろうからな」
ああ、優しい。優しすぎて夢みたいだ、現実なのに。
しばらく、横になって休んでいるとチャイムのなる音が耳に届いた。
なんとか起き上がって、行こうとすると、彼に阻止されてまた寝かされた。
ああ、どうしてこんなだめな私を甘やかすの。
優しいけど、ひどい人、切り捨てられたら生きていけなくなる。
「切り捨てるつもりはないから安心しろ」
にやりと意地悪げに笑って彼は玄関に向かった、ああ、隠し事もできないなんて。
ダークが玄関にでると、飄々と笑っているカオルがいた。
「お邪魔しますー。マイちゃんはどう?」
「貴様がよく想像している通りだ、今は休ませている」
ダークの言葉に、そっかとカオルは呟く。
「マイちゃんー」
靴をぬいで、入っていく。
居間では、マイが目をタオルで隠しながら横になっていた。
横になっていると、聞き覚えのある声に私はタオルをずらす。
明るい表情のカオル先生がきていた。
そうだ、『彼』の件で家にきたんだ、お茶の用意でもしないと。
立ち上がろうとすると、先生が私をソファーに寝たままでいるように促す。
「お茶とかはいいよー、いつも通り買ってきているから」
「ちっ、わざわざいれたのに」
「いやー患者さんとかには気を使わせないようにもっていくのが私のりゅうぎ?だからね!」
「そんな流儀あるか」
今日買った紅茶をさっそくいれている、ソファー前のテーブルにミルクと砂糖が入ったものがすでにあった。
あれ、私ミルクティー好きなのいった覚えがないのに。
そう思って彼をみると、またニヤリと笑った。
ああ、私のことはお見通しというわけなのですね、本当に、本当に残酷なくらい優しくて、いじわるな人です、彼は、貴方は。
少しだけ起き上がって、ミルクティーを口にする。
私好みの味、ああ、すてきな味だ。
そして、飲み終わると、また横になる。
ただ、また彼が膝枕をしてくれた。
「それでいい、よくできるじゃないか」
意地悪げな残酷な笑みなのに、私にはひどく優しいものに見える。
「でさー、君いったいどこからきたの? 宇宙人?」
「まぁ、隠してもしょうがないしな。私は別次元の宇宙にある地球からきたのだ、まぁすでにそっちの次元の宇宙規模でやりたいことはやり終えたからこっちにきたわけだが」
「へー」
先生は信じてないというわけでもなく、驚くかんじでもない、いつもの飄々とした感じで頷く。
「で、こっちに来た理由は」
「世界の変革というおもしろいヴィランらしく愉快なことをしていこうというわけだ!」
「ヴィラン? ってことは悪人」
「まぁ、元の次元ではな。一応自重はしているぞ?」
自重というか、そんな気配はみたことがない。
そういうちらりと横目でみると、彼は意味ありげにニヤリと笑った。
なんで笑うのかわからなかった。
「まぁ、いいや。だったらさー」
先生が話を聞いて、少しだけ考える仕草をした。
とんでもないことを口にするとは予想もしてなかった。
「私も仲間にいれてくれない?」
「え……?」
「うむ、構わんぞ。寧ろちょうどいい。こいつの主治医がこちら側となれば安泰だからな」
彼の言葉に、私は目を白黒させる。
「だって、先生」
「いやぁー世界の変革でしょ? だったら差別問題とか、ブラック企業問題とかいろいろ山積みだからそれどうにかして自分たちにとって好きなようにしようよ!」
「――そんな想像だろうと思った、がそれもまぁ今はいいだろう。こいつの病状の回復のためだしな」
「おや、ヴィランなのに」
「私は自分で決めたことに反する行動はせんだけだ! ヴィランなのは私に逆らう馬鹿者をつぶすにはなんでもやるからヴィランなのがちょうどいいだけだ」
ふんと鼻で笑いながら、彼は私の頬をなでている。
手が鋭いから、手袋ごしでしかなでないのだろう、あの鋭い爪では私の肌なんてあっという間に裂けるにちがいない。
でも、夢が終わるとき、その手で裂かれるならきっと楽になれるだろうと思ってしまう自分がいる。
そう考えていると、頬をぎりぎりつねられる。
「いだい……」
「馬鹿なこと考えるとつねるからな」
不機嫌そうな顔で私の頬をつねってから、手を離しつねったところをなでる。
「いやぁ、これはありがたい。変なこと考えたらそれをとめれる彼氏がいるんだもん、ありがたいなぁ」
カオル先生、プライバシーもへったくれもないんですがこれは。
「ところで、これからどうするの?」
「今は資金調達を地道にやってる最中だ、向こうでの部下のDr.がくれば問題は解決する――」
部屋が突然暗くなる。
「停電?」
「いや、これは――」
彼が来たときのような穴がリビングのすぐ上に開く。
「ようやく到着――どうわ?!」
着地に失敗したと思わしき、全身つぎはぎだらけの変な人が床の上でぴくぴくと痙攣している。
頭にはアンテナみたいなのがついてて、フランケンシュタインみたいだと思った。
「お前の思ってる通りだ、こいつは見た目通りの名前でな、ドクトル・フランケン。私はDr.と呼んでいるが、まぁ、俗にいうマッドサイエンティストだ」
「ヴィランの組織にマッドサイエンティストは付き物だもんね!」
カオル先生納得がはやい。
彼は私が頭をぶつけないように立ち上がり、再度寝かせてからぴくぴくしている人に近づく。
「遅いぞこの馬鹿もの!! 貴様一時間以内には到着しますとか抜かしながらきたのは一日も遅れてるではないか!!」
どこから覚えてきたのかハリセンでその人をしばいた。
「ぐふ! な、なんかいつもより対応が優しいので本当にダークレイン様なのか気になるところ――」
「ほほう、なら裏でいつも通りにしばきたおしてやろうか?」
今までにない凶悪で加虐的な笑みに、その人は「失礼しましたー!」と叫んで土下座をする。
このカオスな空間で、私は何をすればいいんだろう。
待ちわびたDr.の来訪に、ダークは内心ほくそ笑む。
これで、もっと大きく行動を行うことができる。
役者もそろった。
さて、世界を変革しようではないか!
とりあえず、今は弱くてもろい恋人を第一に、活動しよう。
誰にも知られぬまま、最後にそう付け加えた。
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