Lotus

青砥 瞳

第1話 真夏の庭で

パパにキスしちゃった。

庭で植物に水をやった後、横になって眠ってるパパに。

大好きなパパ。

小鳥が見ていた?

遠くで蝉の鳴き声が聞こえたわ。


パパは眼鏡をかけたままで、邪魔だから外したかったんだけど起こしてしまうでしょ、だから、そのままでね。

私のファーストキスの相手がパパだなんて知ったら、きっとパパも嬉しかったと思うのね。違うかしら?

私は一人っ子だし、小さい時によく本を読んでもらっていたわ。


・・・・・・・


芝生の上でランチする学生達。

食堂が狭いし、皆、教室や外でランチするのよ。

ここにいると、時々思い出すことがある。


パパにキスした庭や私がその時、かぶっていた帽子。

ブルーベリーの濃い紫色。

庭には小さな池があって金魚が何匹か泳いでるの。

ゆっくり動いて下から花をつつくのね。

そうするとユラユラと花が遅れて揺れる・・・あの、夏の日。


・・・・・・・


毎年、眩しい太陽が芝生に反射して、白い光に変わるように目にうつる。痛いくらいで、目を閉じることもあるのよ。

今年ももうすぐ顔に手をあてるようなことがあるのだろうか。夏の芝生は、短く刈られてしまうが、その前にぺちゃんこになることもあるわね。

皆がそこに座ったりするから。


煉瓦造りの校舎の通路で、私はパパに似た顔の男とすれ違った。

一瞬、あの時に戻ったかのように頭の中で蝉の鳴き声がこだまする。下から金魚につつかれたように頭と体がユラユラしていたんだと思う。

何かに誘導されたかのように私は振り返る。

どうやら、その「パパ」の後を5~6歩追っていたらしい。

パパが使っていた、トップノートがムスクの香りのするオーデコロンまでが同じだなんて。


・・・・・・・


キスの仕方なんか知っていたわよ。

ボーイフレンドと頬にしていたんだから、それに、子供じゃなないんだから。

目を開けたり閉じたりして、吸い合うようにするのが本当みたいね、パパと愛人のキスをみていると。

パパの顔に赤いグロスがつくから、愛人はクスクス笑いながら手か麻のハンカチで拭き取ってあげてる。

だったら、最初からグロスなんかつけなければいいのに、って思っていたわ。


Daddy, I need your love.

Oh,

lovesick...

Please call me, "Honey" ! not as a daughter, but ah...


ムスクの香り・・・くらくらする。この緑は池の花の葉っぱかしら、いいえ、学校のツタよ。

もうすぐ時計に向って伸びていき、茶色の建物がうっとおしいくらいのツタで包み込まれるの。


大好きなパパが、どうして、ココにいるの?

私は男の後をもう少し追うと、彼は気がついて微笑んだ。

「やあ、今日は暑いね。」


・・・・・・・


パパは煙草は吸わないけれど、フレンチの後にはブランデーを飲みながら葉巻を吸っていた。あのヒト、愛人は葉巻は吸わないけれど煙草は吸うのよ。

だから、私は、あの煙草の匂いは嫌いよ。

それに、彼女は食前酒にシェリー酒を飲みながら横目でいやらしくパパを見て!


私はあのヒトがテーブルの下でしていたことを知っていたわ。ほら、ガーターベルトが見えそうになるくらいに足をのばして、指先でパパの股間をつついたり押しつけたり。

パパは何食わぬ顔をしていたけれど、私が気がつかないとでも思っていたのかしら。

それとも、わかるようにしてたのかしら・・・どちらでもいいんだけれど。


私もパパに試したかったのだけど、残念ながら足が届かない席で、出来なかったのね。悔しいから愛人の足に悪戯してやったわ。


ふふふ・・・あのヒト、どうなったと思う?


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