第163話 『ミサソレムニス』 ベートーヴェン

 もちろん、人類最高の知恵と知識の固まりのような専門家の方々が、その叡智を尽くして語ってきた作品でありますから、やましんごときが何かを言うべき、いえ、言える、ような音楽ではありません。


 それでも、ならば語るなかれ、聞くなかれ、となると、しろとの立つ瀬がまったくなくなります。


 実際、この『ミサソレムニス』(荘厳ミサ曲)さんは、いわゆるクラシック音楽の中でも、ある意味、非常に難しい立場に立って居られるのです。


 おそらく、ベー先生の作品の中で、もっともすぐれた作品である。


 これは、たとえば『第9交響曲』を横に置くのかどうかとか、そういうことはあるとしても、多分この事実は正しいでしょう。 


 一方、多くのキリスト教徒でもない日本人に、そもそも語る資格があるのか、語ってほしくない、あるいは、語るべきでもない、あるいは、なぜ、日本人が語るのか? という疑問を抱く皆さまは、日本にも世界にも、多分、たくさんいらっしゃるでしょうし、それがまた、心の問題である以上は、すぐに間違いだと言えるものでも、ありません。


 ところが、いつもお世話になっております平林直哉さまの『クラシック名曲初演&初録音事典』を読ませていただきますと、この大作の全曲初録音は、1927年から28年にかけてのことで、それは、なんと、日本からの要望で行われたというのであります。


 日本人の録音・レコード好きは、どうやらSPレコード時代初期から続いてきているということは言えそうです。


 しかし、なんでまた、この深遠で巨大な作品にまで、日本人の知識欲と言いますか、追及心と言いますか、が、及んだのかあ。


 当時、まだSP時代で、全11枚組であったとのことで、きっと、相当お高かったと思いますが、1000組以上の予約が入ったとのこと。(演奏は、ブルーノ・キッテルさま指揮の、ベルリン・フィルその他の皆様・・・CDもあります。)


 もちろん、こうした現象は、この曲だけではなかったのですが。


 じゃあ、まあ、ベートーヴェンさんとか、シューベルトさんとか、そこらあたりのドイツ・オ-ストリアあたりの作曲家様だけの人気かと思いきや、そうでもなくて、たとえば、シベリウス先生の交響曲を始めとした作品集のレコードも、しっかり企画されてゆきます。


 これもまた、今日、非常に貴重な録音となっております。


 おとと、・・・録音のお話に傾きましたが、つまり、相当昔から、日本人はこの大曲に、興味津々だったわけなのです。


 いささか、お金持ちさんやインテリさんの、ペダンチックな趣味の範囲であっただろう事は、否定はできないのですが、それでも欧米のレコード会社さんは、びっくりしたでしょう。


 そこで、しかあし!


 やはり、この曲、すごいのです。


 すごいから、聞きたいのです。


 確かに、カトリックのミサのテキストを用いているので、『宗教音楽』という範疇ではあるんですが、そこは、ベー先生の事。


 大バッハ先生のように、一途に神様に祈りを捧げているのとは、どうも一線を画しているのでは、とも、言われて来ているようであります。


 『・・・純粋な交響的作品である。』と、ワーグナーさんはおっしゃったとか。


 もちろん、議論は沢山あるのでしょうけれども、ベー先生ご自身は、宗教、宗派という壁を越えた音楽を書きたかったのではないか、いや、そうに違いない。


 という見解が、かなり有力のようにも見受けます。


 しかし、そこらあたりの議論は脇に置いて(おいちゃいけないのかもしれませんが。。。)、なおかつ、この曲は、やはりものすごく感動的な音楽です。


 なんとなあく、近づきにくい雰囲気はあると思います。


 それは、しかし、大体は『慣れ』の問題であります。


 『読書百篇、意(義)自ずから見(あらわ)る(通ず)』(魏志)


 というのは、やましんには真実ではないのですが(何べん読んでも分からない物はわからない!)、こと、クラシク音楽に関する限り、聞くにも、演奏するにも、数多く行う事に、越したものはありません。たぶん。『練習また練習』、『聞く、また聞く』なのです。


 そうすると、この曲には、実に美しいメロディーが全曲に満ち溢れていると、気が付きます。


 実に、カッコいいところも、多々あります。


 謎もあります。


 最後の終結部分が、あまりにあっけないこともそうです。


 しかし、作曲したベー先生が、『そうでなければならぬ!』と思ったわけで、ここは、その意図をくみ取る努力が必要なんでしょう。


 『第9交響曲』と、車の両輪みたいな音楽なので、ぜひ、両方お楽しみいただけると、なによりかと存じます。


 なんで、『うつうつ』に入ったのかは、気にしないでください。


 あ、初演は、1824年4月7日であります。なぜか、サンクトペテルブルクにて。

 


 

 ************うつ 👼 うつ************   




 






 





 

 

 

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