第3話  ショーソン:ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲

 ドアを開けてみると、その向こう側は、別世界だった。

 というお話は、昔からあったのだと思いますが、これは、特別SF的な世界ではなくても、よくある事かも知れません。

 例えば、あなたが地元で入社以来、一度も行ったことがない本社に行き、高いビル最上階の、社長室のある階に、何かの都合で紛れ込んでしまって、つい、そのドアをそっと開けてしまい、ああ、そこで見たものは・・・・・。


       💎


 ショーソンさんの音楽には、少しそういう日常ではない、異世界の雰囲気があります。

 ラヴェルさんもそうですけれども。

 しかし、そのラヴェルさんや、ドビュッシーさん、あるいはサン=サーンスさんなどと比べると、フランスの作曲家の中でも、ショーソンさんは日本における一般の知名度は、ちょっとばかり低いかもしれません。


 それは、おそらく、ラヴェルさんの「ボレロ」とか、ドビュッシーさんの「牧神の午後への前奏曲」や「月の光」、サン=サーンスさんの「動物の謝肉祭」とかの、超有名曲には、恵まれていないことが一つ大きな原因なのでしょう。

 唯一、「詩曲」だけは、それなりに有名ではありますが・・・・。

 そうそう、あと「交響曲」と。



 けれども、この作品、音楽ファンの間では、それなりに知られている傑作ですが、ぼく自身、普段は「ぼくは、北欧物が好き」と言ってはいるものの、実は大好きなのです。


 フランスの作曲家の作品の中でも、サン=サーンスさんの「ピアノ協奏曲第4番」とか、「ヴァイオリン協奏曲第3番」、ラヴェルさんの「弦楽四重奏曲」、ピエール・サンカンさんの「フルートのためのソナチネ」、あたりと共に、まだ体調が悪くなっていなかったころから、ぼくが惚れ込んでいた曲の一つでした。


 不思議な音楽なんですね。美しいメロディーのオン・パレードでもあります。

 第一楽章、その、不思議な世界の始まりです。

 第二楽章、これはもう、まるで夢の世界のような、音楽的にはここが最高・・・

 第三楽章、これが一番不思議な世界です。そこにさまよいこんでしまって、どうしても出口が見つからない、でも、出たくもない、ような。

 それから、第四楽章、そのフィナーレが素晴らしい。いつ聞いても、わくわくしてきます。

 なんだか、おとぎの国から、勇気とか、元気とか、夢とか、希望とか、愛とか、そうした、あらゆるすばらしく良い事が、これまで、どうしても見当たらなかった、そうした最高のものが、うわ~っと、いっぺんに、ぼくに押し寄せてくるような感じがします。


 ・・・大好きな音楽というのは、例外もあるでしょうけれど、歯車が合わなくなって、なにもかもがうまくゆかなくなった自分にとって、実際、大きな支えになってくれたものです。


 しかしながら、ぼくの場合、それは、とにかく自分を成り立たせる最後の砦、これが陥落したら、自分は自分じゃなくなる。もう自分には時間がない(これはいまでもそう思います)という、がけっぷちの状況でした。今から考えると、あまりに極端な心理状態に自分を追い込んでいたのです。周囲の人は、数人の例外をのぞいて、ほとんどすべてが敵(一方的に攻撃されてしまう! でも、勝手に味方にされた方も、たまったものではないですよね)、味方は音楽だけ、というような。退職した、半年ちょっと前は、まだ実際に、そう思っていましたから。 


 それでも、この曲も、なんとかそこで自殺なんかしないで、ここまで来ることができた、その支えをしてくれた、ありがたーい曲の、ひとつなのであります。

 

 とはいえ、(ここからは、また音楽だけのお話ですが)ぼくの趣味から言うと、この曲のあまり重厚な演奏は好きではありません。音が厚すぎると、興ざめしてしまうからです。フランスの音楽には、テクニックという意味以上に、「色」と、ある種の「センス」の良さが、とても大切なように思います。


 そういう意味では、例えば、ジョシュア・ベルさんと、ジャン・イヴ・ティボーデさん、タカーチ弦楽四重奏団の演奏なんか、大変結構なものでした。ショーソンさんは、日本では、まだ、ちょっと(小)損してる作曲家の一人ですが、この先、もっと人気が出るといいよなあと、思うのであります。

               😞🌀


 フィリップ・コラールさん、オーギュスタン・デュメイさんと、ミュイール弦楽四重奏団の皆さまの演奏したCDも、しっとりとした名演。


 ところで、ショーソンさんは、別荘にいらっしゃった際、(確か娘さんが見ている前で)、乗っていた自転車がご近所の塀か壁に激突して、亡くなったのだったような覚えがあります。まだ44歳。あまりにお気の毒です。       




 ・・・・・・うつ 😭 😞🌀 😭 うつ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

  

 

  

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