三題噺短編集

星成和貴

海、魂、海月

「お母さぁぁん!!」

 夜の海辺で幼い少女が泣いていた。その正面には母親の遺体。

 少女の父親はそっと少女の頭を撫でると、

「大丈夫だよ。母さんはいつまでも見守っててくれるから」

 と優しく話しかけた。

 少女は不安そうに父親を見上げた。

「本当に……?」

「あぁ、本当だとも」

 父親は答えると、深呼吸をして呪文を唱え始めた。


「我らが母なる海よ、清浄なる魂を導き給え。

 天に輝く聖なる大地よ、彼の者を受け入れ給え」


 唱え終えると、母親の身体が光り出した。

 そして、その魂は一点へと集まっていった。拳ほどの大きさになったところでそれは身体から離れていった。

「お母、さん……?」

 何が起きているか分からない少女は未だ不安そうにその様子を眺めていた。けれども、少女にも分かっていた。その光自身が母親の魂であることに。

 魂は海へと入っていった。そして、どこからともなく現れた海月くらげが掴んだ瞬間、母親の姿へと変化した。


『さぁ、いつまでも泣いていないで空を見て。あの聖なる大地でいつまでも見守ってるからね』


 少女の脳内に直接響いた母親の声。それにより少女は安心して空を見上げた。

 そこには聖なる大地、真円の月が輝いていた。

 魂の光は再び海月の姿に戻ると、空を泳ぎ、月へと向かっていった。

 そして、海月が見えなくなった頃、少女は見つけた。輝く月の中に優しく微笑みかける母親の姿を。

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