第17話 虫

「思ってたよりも明るいんだな。洞窟みたいなところだからもっと暗いと思ったんだけど」


 迷宮内を二人が歩いていく。迷宮の中は明るいとまではいかないが、普通に行動するには十分な明るさで満ちていた。


「本当ですね、真っ暗なのかと思ってました」


「まあ明るい分にはいいか。そこ窪んでるから気を付けて」


 2人は迷宮を歩き続ける。しばらく歩くとフォーチュンの腕の中にいた電気うさぎが耳を立てて迷宮の奥を見る。


「あれ、どうしたんですか?」


  フォーチュンは今までおとなしかった電気うさぎが急に動き始めたため、不思議そうに耳をぴくぴくと動かす電気うさぎを見る。そんな様子を横で見ていた空太は、電気うさぎの見る方向へ目を向ける。すると奥の方で複数の影がうごめいていた。


「何かいるな。でもなんだろう、見たことないような影だな。フォーチュン、何か来るぞ」


 空太は見たことのない影に身構えつつ、フォーチュンに気を付けるように伝える。遠くにあった影はだんだんと近づいてきて、その姿がはっきりと映る。


「いも虫か?それにしてもでかいな。というか気持ち悪」


 近づいてくるにつれてだんだんとその姿が鮮明になってくる。はっきりと目に映った姿は全身が緑色の巨大ないも虫だった。


「あんまり見たくないけど『解析』」


 いも虫の方をあまり見ないようにして解析を唱える。しかし普段唱えると現れるステータスの表示は現れない。


「あれ?おかしいな。なんで出てこないんだ。『解析』」


 空太は電気うさぎに向かって解析を唱える。迷宮に入る前は見ることができたステータスは表示されなかった。


「迷宮の中は解析できないのか?それは置いといてまずはあいつらをどうにかしないと」

 少し考えた後、空太は腰のナイフを抜く。横から驚いた声があがると、空太の少し前に電気うさぎが飛び降りる。


「びっくりしました。大きいいも虫ですね」


 フォーチュンは電気うさぎが腕から急に飛び出したことに驚くと目にいも虫の群れが映る。


「フォーチュン、あれ見ても平気なの?」


「え?ただの大きい虫ですよね?」


 フォーチュンは空太の問いに答えながら杖を構える。


「フォーチュン、目をつむって。電気うさぎ『発光』」


 空太に目をつむるよう言われ、フォーチュンは目をつむる。目をつむった後洞窟内は何も見えないくらいに白く光り、また元の明るさに戻る。空太とフォーチュンが目を開けると、バチバチと電気が体から漏れ出る電気うさぎと、少し遠くでばらばらの方向に進むいも虫の姿があった。


「最初はまっすぐ進んでたのにだったのに今はふらふらしてる。成功だよな?」


  目をつむっていたため電気うさぎのスキルが成功したのかを半信半疑で確認する。


「次は『放電』」


 空太が再び電気うさぎに指示を出す。いも虫に向かって電気が飛んでいく。電気がいも虫の1体の直撃するといも虫はのたうち回る。


「うわあ、やっぱり気持ち悪いなあ。それにあれ斬ったら体液出るんだろうなあ」


 空太は斬った後のことを考えながらいも虫へと走り出す。その横を電気うさぎがぴょこぴょこと走り、フォーチュンは適度に距離をとりながら後ろを走っていた。


「近くで見るとさらに気持ち悪いな」


 空太は少し嫌な顔をしながらナイフをふるう。ナイフがいも虫に当たると『ぴぎゃあ』と声が漏れ、切れた部分から体液が噴き出す。何回かナイフで斬りつけるといも虫は光の粒子となり魔石が転がる。


「うわあ、やっぱり出るんだ。一撃で倒すと体液が出る前に魔石に変わらないかなあ」


 空太はいも虫の頭を狙いナイフをふるう。ナイフがいも虫を斬ると同時に体液がかからないように後ろへ飛ぶ。するといも虫から体液が飛び出る前に光の粒子に包まれる。


「よかった、今回は体液が飛び散らなかった。この調子で倒していこう」


 空太はナイフで、電気うさぎは電気を飛ばしたり体当たりでいも虫を倒していく。時折いも虫にかみつかれたり、体当たりされたりするが、そのたびに後ろで控えていたフォーチュンがヒールを唱える。


「よし、これで最後だ」


 そういいながら空太がナイフをふるうと最後の1匹が光の粒子に変わる。


「おわったー。フォーチュン、回復ありがとう。電気うさぎもありがとう」


 空太がフォーチュンと電気うさぎに礼を言い電気うさぎをなでる。すると電気うさぎから電気が流れ出る。電気を流すのをやめると電気うさぎはフォーチュンのところへ走っていった。


「いてててて。やっぱり駄目か」


 空太は触るのをあきらめつつ魔石を拾いマジックバックへ詰めていった。

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