大好きなゲームがサービス終了するかと思えば異世界で召喚できるようになりました
雪丸
冒険の始まりと始まりの迷宮
第1話 異世界へ
「君の作戦で戦況をひっくり返し、勝利へ導け」
そのキャッチフレーズとともにゲーム界に旋風を巻き起こしたカードゲーム『マジックタクティクス』
リリースしてからのアップデートでたくさんのカードが追加されていったが、初期からあるカードも使い方次第で十分に使うことができた。リリースから二年以上がたち、あと一か月ほどでリリース3周年に乗る長寿アプリだったが、日々新しいゲームがリリースされユーザーがどんどん新しいものへと流れていき、このゲームもついにその歴史に幕を降ろす時が来た。どんなものにも終わりが来るため仕方のないことだった。
昼休みの間、生徒たちは思い思いの時間を過ごしていた。教室で友達と話をしながらご飯を食べる人、次の授業の予習をしたりやり忘れた宿題を慌ててする人、他の教室へ行ったり食堂へ行ったりする人。そんな中、
「えっと、運営からのお知らせ。これだな。何だろう、次のアップデートの内容かな?それとも新キャラの情報とか」
とつぶやきながらスマートフォンの画面をタップしブラウザのページが更新されるのを待つ。検索が終わり内容が画面に完全に表示される。空太はその画面を見た瞬間
「嘘だろ!」
と思った以上の大声が出る。いきなり教室内から大声が聞こえたため、教室内の視線が空太に集まる。
「ごめん、何でもない」
とだけ視線の持ち主たち言い、もう一度画面に目をやる。そこには太文字で目立つように【サービス終了のお知らせ】と表示されていた。
(嘘だろ、サービス終了とか。まだやってないことばかりなのに……。 ギルドのみんなはもうこのこと知ってるのかな)
そう思った空太は掲示板アプリを起動させ、所属しているギルドのページを開ける。そこには「今までお疲れ様でした」や「次やるゲームでも会えるといいですね」といった会話がされていた。
空太はこのギルドにアプリがリリースされたころから所属している。二年以上同じギルドに所属してきたため、ギルドメンバーはどんどんと入れ替わっていった。それでも毎日行われているギルド戦の出席率は他のどのギルドよりも高く、このギルドのメンバーはこのゲームが本当に好きなんだなと思っていた。
「みんなもうちょっと怒ったり悲観したりしてるのかと思ったけど、全然そんなことないんだな。はあ、あと一か月でこのゲームも出来なくなるのか」
そんなことを考えながら空太はマジックタクティクスを起動させる。見慣れたオープニングムービーが終わり、ログイン画面へと切り替わる。いつもと同じようにハンドルネームとパスワードを入力しゲームへログインすると、最初に映し出されたのは『サービス終了のお知らせ』だった。
「やっぱり終わるんだな。あと一か月、悔いの残らないようにやりきろう」
そう呟きながら画面をタップし未攻略のマップへ移動する。
「ここ何回やっても勝てないんだよな。クリアできないまま終わるのは嫌だし。それにしても今使っているデッキ戦略のかけらもないものだからな。ほとんど運任せのデッキだし」
とゲームのキャッチフレーズとは全くかけ離れたデッキを使っていることにつっこみを入れる。
「でもうまくいけばこのデッキで勝てない相手はいないと思うし、イラストがものすごい好みなんだよな。まあ偶然に偶然が重ならなきゃうまくいかないんだけど……。 っと、今回かなりうまくいってる。このままいけば攻略できるかもしれない」
順調良く戦闘を続けていく画面を眺めている空太の顔にはだんだんと笑みがこぼれてくる。カードを出す順番を考えながら画面とにらめっこを続けていると、ついに最後の時がやってきた。
「よし、いいかんじだ。あと一発、頼む終わらせてくれ」
自分の持っているカードが相手を攻撃すると相手のHPゲージが0に近づいていく。やがてゲージが0になると画面が戦闘画面から切り替わる。そこには『You Win』の文字が表示されていた。
「よっしゃー!やっと勝てた。このデッキだと勝てないってギルドのみんなにさんざん言われてきたからな。報告して驚かしてやろう」
そういいながら画面をスクリーンショットで撮ると同時に昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。
「報告するのはまた後でか。でもみんなどんな反応するだろう。楽しみだな」
空太がギルドメンバーの反応を考えていると教室の床が突如光り始める。
「なんだこれ?」
だんだんと光の強さが強くなっていき教室内が悲鳴であふれる。一際強く光ると教室内の喧騒とした雰囲気はなくなった。床の発行が終わるころには教室内に人影は残っていなかった。
「おお、成功したのか。これでこの国も助かるかもしれん」
「はい、王様。時間がかなりかかってしまいましたが、無事異世界からの勇者召喚に成功しました」
ざわざわとした空間の中、一際大きな声が二つ。そんな中教室内にいた生徒たちは目を覚ました。
「どこだここ?見知らぬ人もいっぱいいるし、建物も造りが全然違う」
空太達が目を覚ましたのは、普段使っている木目の入った床の上でも、コンクリート製の壁でできた室内ではなかった。
「初めまして、突然見知らぬ場所に呼び出して申し訳ない。いきなりで申し訳ないがワシの話を聞いてもらえんか」
と老人が声を発すると、ざわついていた生徒たちが徐々に静かになっていく。
「ありがとう。ワシはこの国『アーレ・クラウド』の国王アルカルドという。今この国は魔物や魔族との戦いで疲弊しきっておる。何とか昨年の魔族との戦争は耐えることができたが、次の戦争までに国力を回復させられる方法がなかった。そこでお主ら異世界の人に助けを求めるため、古より伝わる召喚魔法使い召喚させてもらった。いきなりで本当に申し訳ない。この国を救ってもらえないか」
と、老人が召喚に至った経緯を話していると、生徒達からは「なんで俺たちが」や「元いた世界に帰してくれ」といった声があふれ出た。
「本当にすまない。こちらの勝手な都合で召喚してしまって。だが頼む、この国を、この世界の人類を救ってくれ」
と言いアルカルドが頭を下げる。それでも一向に騒ぎは収まらない。しかしそこに一つの声がこだまする。
「みんないったん落ち着こう。いくらここで騒いでも何の解決もしない。一回きちんと話を聞いてどうするかを考えよう」
そう言ったのはクラスの中心的な存在である
「王様、顔を上げてください。いきなりのことで驚いていますが、一度話し合いをしてそこから判断させてください」
そう言い終わると、アルカルドは顔を上げた。
「すまない、こちらの要件ばかりを言ってしまった」
「いえ、大丈夫です。それより僕たちが聞きたいのは2つです。1つ目は、異世界から来たとはいえ僕たちはただの一般人です。そんな僕たちがこの国の助けになれるとは思いません」
「おお、そのことか。そのことなら大丈夫じゃ。召喚されたときに特別な力が付与されているはずじゃ。また後でそのことについてはそこの神官に話をさせよう」
「ありがとうございます。2つ目ですが、元いた世界に帰れるかどうかですが、何か方法はありますか?」
「そのことなんじゃが、古い伝承を信じるしか方法がないかもしれん」
「戻れる方法はあるにはあるのですね?」
「じゃが真実かどうかはわからぬ」
「それでも教えてください」
「わかった。古い伝承によると、この世界を創った神は世界の各地に大迷宮を造った。そしてその最深部に1つずつ神具を封印し全ての神具を集めた者の願いを叶えるといい天界へと還っていった」
「つまり魔物や魔族と戦いながら神具を集めていく、ということですね」
「ああ、じゃが神具のことは我々だけでなく様々な種族が知っておる。他の種族と競い合い手に入れなければならん」
「ありがとうございます。少しみんなと話をしてきてもいいですか?」
「構わん。良い返事を期待しておる」
アルカルドとの話し合いを終え、光が生徒達のもとへと帰ってくる。
「みんな、いきなり知らない場所に連れてこられて怖いのは僕だって同じだ。でも元いた世界に帰るにはこの国の人たちとともに戦うのが一番早いと思う。それに僕たちには特別な力があるみたいだ。僕はこの力をできるだけ役立てたいと思う。命を懸けることだから無理にとは言わない。みんなで戦って元の世界に帰ろう」
光が生徒たちに説明をするが賛同するものは出てこなかった。しばらく静寂が包み込んだ後、
「光がそこまで言うなら付き合ってやるか。なあ香織、飛鳥。元の世界に戻るにはこれしかなさそうだし」
と一人の男子生徒が声を上げた。声の持ち主は光とよくつるんでいる
「私たちにできるかな。でもやらなきゃダメなんだよね?」
「はあ、仕方ないわね。あんたたちだけだと心配だから付き合ってあげるよ」
その後二つの声が聞こえてくる。弱々しく話しているのが
クラスの中心的なグループがやると決めると、「あいつらがやるんなら」といった感じでクラスがまとまる。クラス全員の参加が決まると光は再びアルカルドの方へと歩いていき、
「王様、僕たちでは力不足かもしれませんができる限り力になりたいと思います」
「おお、ありがとう。今日は見知らぬ場所にきて疲れておるじゃろう。夕食の支度と各々の部屋の準備ができておる。今日はゆっくり休んでくれ」
そう言われた空太達は用意された夕食を食べ部屋へと移動する。見知らぬ場所のせいか、部屋のベットに横になるとすぐに眠気が襲った。
こうして空太達の非日常的な一日が終わった。
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