アイチップ
藤森空音
序章
第0話
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私はある時思い立った。
世界に「我が子」を認めさせる方法を。
その発端は、他人にとって些細なことかもしれないし、実にありふれた話かもしれない。それでも私は……いや、少なくとも私にとっては「我が子」を世に出すに十分な理由だったのだ。
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彼との出会いは10年ほど前、大学入学当初に遡る。一人で昼食をとっていた私の前に現れたのが、彼だった。
「ここ、いい?」
「……どうぞ」
緩くパーマの掛かった黒髪に、さっぱりとした綺麗な顔立ち。それにテレビに出ている芸能人のように、思わず目を引く雰囲気を纏っていた。
私とは対照的な人。それが私の彼に対する第一印象だった。
「新入生だよね?」
彼の不安げなその問いに私は頷く。
「良かったー。いや、その紙袋持ってるから、多分そうだろうとは思ってたんだけどさ、もし違ったら、俺すごい失礼だよなと思って」
「そうですね」
私は、焼き魚定食を食べながら答える。馴れ馴れしいなと思いながら、彼の横に置かれた物を見て察する。
「どこの学部? 良かったら友達にならない?」
友達とは、こうしてなるもなのだろうか。それにその言い方は、ナンパに誘うようなそんな軽さだ。
「ははっ。君、面白いね! 確かに、君の言う通りだ」
目の前の彼は目を細め口角を上げながらそう言った。どうやら、声に出ていたらしい。彼は自己紹介を始め、私はそれに応じた。彼は同じ学部の新入生であるらしかった。
その日から、私たちは自然と一緒にいることが多くなった。
彼は友達の多い人だった。教室の移動途中に声をかけられることも多く、お昼ともなれば、自然と大人数での食事になっていた。
今になって思う。もし、あの時、彼が声をかけてくれなかったとしたら、今の自分はいたのかと。あの出会いは、偶然ではなく必然であったのかもしれない。だが……。あの出会いがなければ、と思わないことがないわけではない。
人付き合いの苦手だった私は、彼と出会うまで友達と言うものを知らずに生きていた。幼稚園では、「お友達」とは喧嘩三昧。保護者からも煙たがられ、小学生の時には、クラスから虐められ。高校では部活動に入り友達を作ろうと思うものの、馴染めず2年の文化祭後に退部。友達ゼロのまま、大学生活を迎えたのだ。私は、入学を機に変わろうと思ったが、マンモス校の入学式に気圧されあっけなく大学デビューへの道は遠のいたのだった。
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