スマホいっこぶん

純 天晶

プロローグ ~伝説の樹の下で~

「先輩、ずっと好きでした。付き合ってください!」

 そう言って差し出した彼女の手は、思ったよりも高い位置にあって、僕は「こちらこそ、よろしく」と手を伸ばそうとしたが、握手じゃなくてハイタッチみたいになりそうだったので、どう対処していいかわからず、若干フリーズ気味になってしまう。

 すると彼女は、断られたのかと勘違いしたのか、急に後ずさって、わなわなと体を震わせながら、こう言った。

「…先輩、もしかして……」

「あ、いや、えーと…」

 彼女はきっと、『君とは付き合えないと言いたいんですね』とか言ってくるのかと思いきや、

「ゴルゴ13みたいに、握手する習慣はないとか、そういうことを言いたいんですね!? そうですよね、私がうっかりしてました! 先輩みたいなすごい人が、簡単に利き腕を相手に預けるようなことはしないですもんね! うっかり背中に立ったりもしないようにします! 先輩の秘密も探ったりしません! だからお願いします、付き合ってください!!」

「…はい」

 なんだかよくわからないが、OKしてしまった。色々ツッコミどころはあるのだが、高校生活3年目にして、人生初の彼女、しかもけっこうかわいいし、ということで、健全な男子高校生としては、そういう明るい未来を描けそうな出来事を優先したとしてもおかしくはない。

 こうして、僕と彼女は付き合うことになったのだが、僕の身長は160センチ、彼女の身長は推定175センチと、その差15センチ、大体スマホ1個分の身長差があり、そのことが原因であんなことになるなんて、この時は夢にも思わなかった…と言いたいところだが、彼女の言動から、ただではすまないだろうな、ということは何となく想像がついたのだった。

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