第一章 ④


 ウィンチェスターM一八九七。銃身下にあるフォアエンドを手前に引いて戻すことで装填と排莢を行うポンプアクション式の散弾銃。レバーアクション式よりも単純かつ頑丈な機構は、連発式散弾銃のパイオニアとまで謳われている。恢が使うのは、二十インチの銃身にバレルジャケッドを被せ、銃剣を取り付けたトレンチ・ガン式スタイルだ。


 十二番径の弾薬は残り五発。恢は銃剣合せ全長千四百ミリに届く銃器を軽々と振り回す。鋼刃の軌跡に触れた魔物が、薄紙一枚の抵抗もなく両断される。


「悪魔憑きを殺したかったら、短時間の内に身体を燃やせ。流石に、灰になったら再生は出来ねえよ」


 聞いた魔物は次の瞬間には首を落とされ、あるいは胴体を撃たれて絶命する。


 弾切れと同時、恢は葡萄心臓へと肉薄する。まだ、魔物の数は健在だ。彼我の距離、約十五メートル。


 踏み込み、左脚を軸にして独楽のように身体を捻る。己が全てをバネに変えた一撃は、右手に握る銃剣付き散弾銃へと集約し、爆発した。投擲されたウィンチェスターM一八九七が、亜音速で一直線に大気を切り裂く。軌道上の魔物は次々と穿たれ、とうとう恢の一投は届いた。


 葡萄心臓へと銃剣が突き刺さる。黒いタールのような液体が飛び散り、霧が瞬く間に霧散した。すると、あれだけ凶悪だった魔物群れが空気でも奪われたかのように身悶え出す。


 熱せられたバターのように魔物が融ける。グズグズと腐敗するように消えていく。一匹、また一匹と存在を失っていくのだ。おそらく『魔女の道具』が齎した異界でしか活動が出来ないのだろう。残骸さえ体積を奪われ、何もかもが嘘だったかのように無くなってしまうのだ。


 恢はアークロイヤルを咥え、火を着ける。耳鳴りさえ覚えてしまいそうな静寂の中で、バニラフレーバーだけが唯一の安らぎだった。


 一分か、二分か。恢はようやく振り返った。魔物の群れを前にしても恐怖を覚えなかった掃討屋が、息を飲んだ。顔を真っ赤にして様々な体液で濡らした少女に、猛烈な勢いで睨みつけられたからだ。レミリアが肩を震わし、ぼそっと口を開く。


「一つ、お願いがあるんだけど。身体を綺麗に出来る場所に案内してくれないかしら?」

 恢は無言で頷いたのだ。何度も。

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