第3章  ギルド・パニック  〔大組織乱入〕

とりあえず帰宅?した俺は、ナミリに「部屋」を案内された。そこが、今日から俺の住処になるんだとさ。

「ここよ」

そう言ってナミリが案内した部屋。それは、

「・・・狭すぎだろ」

およそ、10メートル四方。これで部屋というのだから、もう生活などどうしていけばいいのか全く分からない。

「文句言わない、あんたは本来死ぬはずだったんだから」

まあ、それを言われればそりゃマシなのかもしれないが。

「あっ、そうそう」

ナミリは、俺に注意を促す。

「あんた───アルト・サークスは元レイン・セルライドだってことは秘密にしてあるから」

はっ?

どういうことだ、と思った。

同じギルドメンバーなのだから、それくらいは知っておいた方がいいのではないか・・・?

だがそんな俺の心を見透かしたかのように、ナミリは続けた。

「そもそもうちって、このギルドに所属してる人でもここにクエストを頼めるようになってるのよ。だからあんたの暗殺依頼はここのメンバーの誰かが出した可能性もあるし、あんたがレインだと知って、依頼してはいなかったけど殺そうとする輩が出てくるかもしれないのよ。しかも、誰かが外に漏らすかもしれないし」

へぇ、と俺は素直に驚いた。

自分がして欲しいことを、仲間に頼める、と。まあ助け合いの精神なのだろうが、よくできたシステムだとも思う。

「だから、あんたがレインだって知ってるのはわたしたちのパーティと、ギルドリーダー、サブギルドリーダーだけだから」

「あー、わかった」

とにかく、俺は「アルト・サークス」として生きればいいんだな。

「じゃあ、を紹介しに食堂に向かうわよ。ついてきて」

俺は、言われるがままに後ろを追った。



騒がしい。

ただそれに尽きた。

実際俺は囚われている身だが、それすらも忘れてしまいそうなほど騒がしかった。

食堂といいながらもそこは酒場のようで、あちこちに酒樽が散乱し、木でできたボロボロのテーブルにはいくつもの料理が雑に置かれている。

もともと古ぼけた部屋なのだろうが、窓がときおりガタガタ震えるほど騒がしい。

「よーグレア、今日は何してくれるんだぁ?」

酒樽を抱えた、酔っ払っている男がグレアに言った。

「何もしない。お前はまたいつものあれか」

それにグレアは、呆れたような顔で答える。

「はぁー、ノリ悪いなぁー」

「それどころじゃないんだ、今日は大事な用がある」

それと同時、ナミリは声を張って叫んだ。

「はーい、みんな注目ー」

そこにいた人たちが、なんだなんだといった顔でこちらを見る。

「新ギルドメンバーよ。・・・ほら、アルト、自己紹介しなさい」

俺は成り行き上仕方がないので、軽く自己紹介をした。

「俺はレ───アルト=サークス。よろしく」

ナミリが、俺の脇腹を肘でつついてくる。

「な、なんかもっと喋りなさいよ」

「はぁ・・・。・・・っと、えー、俺の固有逆術アンチアビリティは、『物理法則破壊』、武器は剣」

その瞬間、場の様子が一変した。

「「物理法則・・・破壊!?」」

固有逆術アンチアビリティ、それはその名の通り誰もが持つ、そして誰一人として同じものがない能力だ。よく通称として異能と呼ばれるが、それは多種多様ではあるものの何もかもができるほど万能ではない。例を挙げると、『炎熱無効』や、『斬撃連破』など、ちょっとした武器のようなものだ。

だがレイン、もといアルトの場合、『物理法則破壊』という、馬鹿げた───────

「あぁ、それか?それは、そのまんま、物理法則をぶち壊せるってことだよ」

俺は全員の疑問に答えた。

「な、なぁ・・・タメ口なのは置いといて、物理法則をぶち壊せるっていうと・・・?」

俺は軽くため息をつき、身近なを探し始めた。

うん、これがいいか。

「つまりは、今存在する物理法則の定義を自由につくりかえられるってことだよ。例えば、このプラスチックのコップ、物理法則じゃあプラスチックはこの温度だと固体、って物理法則があるだろ?それを・・・」

俺ははパチンと指を鳴らした。途端──

「『プラスチックは、融点が10度』ってつくりかえたら───」

今まで手に持っていたコップがどろどろ溶け始めた。否、一瞬で液体と化した。

その影響は周りにも、棚に置いてあった未使用のコップも、さらにはプラスチック製の時計やペットボトルまでがその姿を変えた。

「この世の全てのプラスチックの融点が、10度になる」

そこにいた者は皆、言葉を失っていた。

俺は続ける。

「まあ、用が済んだら───」

もう一度、指を鳴らす。

「破壊した物理法則は元に戻せばおしまいだ」

どろどろの液体になったコップは、その垂れているままの形でまた固まった。

「まあ、こんなもんだ」

やがて、少し時間が過ぎ一人の男がおそるおそる聞いた。

「じゃ、じゃあ、人体に関わる物理法則を破壊すれば・・・?」

俺はその問いにはっと軽く息を吐き、答えた。

「俺も人だ。だから、『心臓を構成する物質は融点が10度』だなんてかきかえたら、相手の心臓も溶けるけど俺の心臓も溶ける。だからそれは無理だ」

な、なるほど・・・という声を聞いた後、俺は辺りを見渡した。

「とまあ、これで俺の自己紹介はおしまい。よろしく、だ」

やがて、歓声が聞こえた。なにゆえか?

「す、すげぇぇぇぇ!なら、このテーブルも───」

「ちょっと、身長181センチ、体重72キロ男は溶けるって法則を」

「おいおいそれ俺だろっ!?」

「はっはっ、なら酒を固体にもできるというわけか?」

さて、困った。

別に俺のことが話題になるのは構わない。だが、こう何人もぎゅうぎゅうに戯れたら・・・

「ええい、落ち着け!この異能、結構力使うんだぞ」

そんな場の雰囲気を、ナミリが鎮める。

「ま、まあ、とりあえずよろしくしてやって。以上、続きをどうぞ」

今度は、イエーイという声がこだました。



「そういえば、まだあんたに言ってなかったわね、私たちの異能」

部屋に戻った後、ナミリが言った。狭い部屋に人三人というのはなかなか窮屈だが、まあ仕方ないというものだろう。

「そういえばそうだな・・・で、なんだ?」

「まず、私は『的射必中』。打った矢とか銃は思い描いたルートを通って必ず狙ったところに当たるって異能。だけどそのルートが阻まれたらそこから直進」

なるほど。つまり、狙撃にもってこいの異能というわけか。

・・・なら、なんでさっき剣で戦ってたんだ?

だがそんな俺の疑問に気づく様子もなく、ナミリはグレアに続きを促す。

「ああ、俺は『炎衝操作』だ。異能の範囲内にいれば、そこにある炎は自在に操れる」

「なるほどな。つまり、俺たち三人はみんな"グロウ系"か」

異能にも、いくつか種類がある。

何かを打ち消したり無効化する"ウォール系"。

武器を生成したり、直接攻撃できる"ウェポン系"。

そして、能力のような、超現象を引き起こす"グロウ系"。

他にもあるが、主にこの三種類に分類される。

とまあ、こんな感じだ。

「そういうことになるわね。・・・じゃあ、互いの異能が分かったところで次のクエスト行くわよ」

「い、今から!?」

「馬鹿。明日の朝に決まってるでしょ。今夜のうちに作戦を立てとくのよ」

なるほど。

「今回の討伐対象は・・・・・んで、ここで取るべき行動は・・・それは、こうして・・・」

波乱ばかりの今日が、こうして終わりを告げた。

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