第2話サイハテンの人々
「お疲れさまでした」aは仕事を終え、タイムカードをいつものように押した。この大陸、サイハテンでは毎日365日仕事に追われている。aの仕事はほかの大陸である知的労働のサイハテンから送られてくる機械のねじ止めを毎日することであった。彼の働く場所は海から近いところにある。船から送られてくるたくさんの機械のねじ止めをすることにaはやりがいもない。だが、仕事が苦痛ということもなかった。最低限度の仕事と生活。サイハテンの人々全員が仕事にやりがいを感じないでいた。
「さて、と」aは作業着から私服に着替え、いつものようにパチンコに行った。最近ソクラテスから送られてきた新しいパチンコの台にめっぽうはまっていたのである。
今日は久しぶりのイベントの日。絶対に勝つ自信があった。だが、持ち金は完全に底をついていた。aは最後の10000円札をパチンコ台に入れて勝負をした。
「いけ、いけ、イッテくれえええーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
結果は撃沈だった。
「閉店15分前になりまーーーーす」ホールの人が閉店のコールを鳴らす。
「はあああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」と大きなため息をついてaはパチンコを辞めた。最後の持ち金でコンビニでカップ焼きそばを買い、家に帰った。aの家は工場から20分ぐらいのところにある小さなアパートだった。「ただいま」とaは誰もいない部屋に言い、家の中に入った。家には最低限のものしかなかった。
aはカップ焼きそばに湯を入れて3分たつのを待ち、出来上がりと同時にテレビをつけた。この時間のテレビはいつもニュースぐらいしかこの国ではしていない。もともと漫才や映画などはマイトクラスの人達が作っているが、つくった作品はすべてヘブンキングの住民しか見れないことになっている。
「へえーーーー、今日は隣町で事故があったのか」と独り言をまたいいながらカップ焼きそばを食べていた。これがaの日常だった。工場のねじの仕事が終わればパチンコに行き、夕食を食べてテレビを見てお風呂に入り寝る。サイハテンの国では全員が似たような生活を送っていた。
あるものは釣り、あるものはゲーム。あるものは映画。またある者はデート。仕事が終わればこのように時間を作れるが、彼らにとって厳しいところが休みがないこと。そして仕事に対してやりがいが一切持てないことだった。毎日毎日同じことを365日ずーーーーーーっとしている。それがサイハテンの人たちの生活だった。
「寝るか」aはその日も同じような時間帯に寝てまた明日に備えることにした。
aの場所から10キロほど離れた場所にサイハテンの王国がある。そこにその国の王様であるドイル達王族がいた。しかし王族と言っても名ばかりのようなものであり、実際は工場の監督のようなものであった。そこの王室に夜大臣とドイルが何枚もの資料を見比べて険しく話していた。ライトもつけずにロウソク一本であたりは暗く、静かなであった。
「ふうーーーーーーーーっ」サイハテンの王様ドイルは今月の収支を確認していた。
「どうでしょうかドイル様?」大臣がこわごわにドイルに話していた。
「厳しいな」
「そうでしょうね。やはりここ最近ソクラテスの国の人たちの生産が落ちているようです」
「・・・・・・そうか、やはりソクラテスの国もかなり厳しいか」
「ここ最近ソクラテスの住民もアイデアに限界を感じているのかもしれません。ですが、それでもマイトクラスの住民みたいに利益が出ないようなものを作られると、我々サイハテンの住民に仕事が回ってこないですし。まあ、あの時のあの変なキャラクターはよくと言いますか、ほんとになんであんなキャラクターが売れたんですかね?」そう言って大臣は例のキャラクターの写真を見ていた。
「ほんとにな」
「で、上の住民はどの様に言われているのですか?」
「何とかしろ!の一点張りだ。とにかく利益を出せ利益を出せと言われている」
「そんなの言われても所詮私たちの国は下請けの国。ソクラテスやマイトクラスから製品を量産してもらえるほどの商品が来ないと仕事なんて着ませんよ」
「そうだが・・・・・・・・・」二人はその夜、長い時間考え事をしていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やはり最後はあの手しかないのかもしれません」大臣は朝焼けが見えたころに一つの提案をした。
「あれか・・・・・・・・・・・・・・・・だが、あの手は人徳に明らかに反している。それにあれはとてもじゃないが、私には・・・・・」
「先代も先々代もこのような状況下では仕方がないとしてきました。ドイル様。あなたにもその決断をする時期が来たのです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・時期、か」ドイルは深いため息と落胆をし、テーブルに置かれたコーヒーを飲んだ。
「おはようございまーーーーーっす」aは今日も工場に到着し、タイムカードを押していつもの作業着をきて仕事に取り掛かり始めた。
「おーーーーーっす」
「bじゃん、どうしたの?」
bはaと同じ工場で働いている仕事仲間である。二人とも同い年の32歳。aは身長175センチ、60キログラムのやせ形で、髪は少し長めのごく普通の体格だった。むしろどちらかというとイケメンの分類に入るのかもしれない。
一方bのほうは身長170センチ、体重85キロのデブであり、こちらは生粋のオタクだった。
「ごめん、a、少し金かしてくんない?」
「は、なんで」
「昨日さ、新しいメイド喫茶の開拓に行ったらぼったくりにあって。それで所持金がもう今月500円しかねえんだわ」
「500円ってお前給料日まであと10日以上あんのにどうすんのさ?」
「いや、だからそれをお前に頼んでるんだけど」
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!!俺らの給料わかってるだろ。365日働いても最低限度くらいしかもらえてないのに他人にお金なんて貸せるわけねえじゃん」
「わかってるけどさ、それを何とか!ほんとにお願い」
「・・・・・・・・無理だよ。どうしたって無理。そもそも今までそんなことなかったのになんでまた?」
「・・・・・ちょっとな。ごめん。悪かった、今の話は聞かなかったことにしてくれ」そう言ってbはまた仕事場に戻っていった。らしくない、bはあーー見えてお金の面はきちんとしているほうなのだが。そう思いながらaはその日もいつものように仕事をしていた。そしていつものように仕事が終わり、その日もaはパチンコに行った。
その日は久しぶりにパチンコに買ったので奮発して大盛りのかつ丼とビールを買った。家に帰ってテレビを見ながらいつものようにニュースを見ていたらそこにbが写っていたのである。
・・・・・・・・・・・・・・・bが人を殺した。
bのニュースはサイハテンの国で最も大きな事件となった。そもそもこのサイハテンの国で事件はあっても人殺しなどここ何十年もなかったのである。そのために国中がbの話題になっていた。
「bのニュースみたか?」同僚や上司たちが一斉に私に聞いてきた。もともとbと一番長くいて一番仲が良かったのは私だからである。
「一応」
「じゃあ何かbがなんでしたのか聞いてたのか?」
「いや、全然」
「へえーーーーー、あれは犯罪おかしそうな顔してたからなあ。俺はいつかはやると思ってたけどまさか殺人とはな。さすが俺たちの考えの上に行きやがるな」そんな話が続いていく日の中でbの判決はまだ決まらなかった。
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