けものフレンズ ~エピソードZERO~

八重垣みのる

第1話 発端

 『ジャパリパーク』は、ニッポニア共和国のジャパリ島に造られた超巨大総合動物園だった。開園を控えていた当時、ジャパリパーク内で奇妙な事案が報告された。しかし、当初は多くの人々の関心を引くものではなかった。


 報告された事案は、動物に似せた耳と尻尾を付け、動物の柄に似せた服を着た女性たちが敷地内で多数目撃されるというものだった。


 パーク建設前のジャパリ島はもともと、大きさの割には無人島であった。パーク建設にあたっても地理的要因から警備が手薄であり、もの好き者が無断で島に立ち入っているのではないかと思われていた。ただ、メディアがそれを話題として取り上げると、世間ではちょっとした騒ぎになった。そのため、時の共和国政府は念のためとして調査隊を派遣することとなったのだった。


 そして調査隊が見たものは、後にフレンズと呼ばれることになる動物に似た格好をして人間離れした身体能力を持つ少女 ――アニマルガール―― たちと、サンドスターと呼ばれることになる未知の物質であった。


 さらなる調査により、サンドスターはジャパリ島にある火山、特に山頂付近にあることが判明した。だが、それを構成する物質が何であるかを判断することは困難を極めた。ただし、虹色の輝きを放つサンドスターは見る者全てを魅了しているかのようだった。


 これらの話題が国外に広がると、瞬く間に世界中の人々の関心を引いた。フレンズの姿を一目見ようと思った多くの人々が、開園前にも関わらず、ジャパリパークに押しかけようとした。特にサンドスターの正体の解明が難航していることが知れ渡ると、多くの学者も共和国に訪れるようになった。余談だが、共和国政府はこの事態を利用して、さらなる観光誘致による国内経済の活性化、研究業界の再興という考えも持ち合わせていたのは事実であった。


 動物のフレンズ化現象がサンドスターによって引き起こされるということは比較的早い段階で特定された。しかしながら、なぜフレンズ化が引き起こされるのかとい問いに対しては答えが出なかった。

 そして、サンドスターがどこからやってきたのかという問いも宇宙由来説と地球深部由来説の二つの仮説が短い論文として学会で発表されるにとどまる状況であった。

 だが、多くの人々はその有用性に意味を見いだすことに熱心であった。特にフレンズ化現象は、必ずしも生きた個体である必要が無いことが判明した。そうなると、かつて絶滅した動物たちをフレンズというかたちでもいいから復活させようという動きが起きるのは当然であった。


「フレンズ化現象は対象動物が生きているかどうかを問わない。これほど魅力的な現象があるだろうか」

 ある生物学者はそのような言葉を残した。


 特にフレンズ化は必ずしも生きた個体である必要が無いことが判明した。そうなると、かつて絶滅した動物たちをフレンズ化というかたちで復活させようという動きが起きるのは当然であった。


 世界にはフレンズ旋風が吹いているようであった。ただ、ごく少数の人たちの中からは「サンドスターの影響がいかなるものであるのか? ましてやフレンズ化した動物達と自然環境の干渉がどのような結果をもたらすのか? まったくもって予測不能である。我々は慎重であるべきだ」という言葉が投げかけられた。

 もっとも、世の常であるが多くの声があるなかで、慎重論は注目されることはなかった。

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