咲希 夢の出会い
信じられない光景が広がっていた。
街並みや舗装された道路は崩壊し、人っ子1人いない。まるで楽しむかのように街を壊していく人らしき奴らが、蹂躙しながら練り歩いている。
けれど私は不思議とそれに慣れていて、仲間らしい人に助けてもらいながらそいつらを倒している。
何が起こっているかわからない、まるで意識と体が別々なのかと思う。
そして、そんな中で見覚えのない、だけどすごく暖かさを感じる銀髪の男に、私は話しかけていた。
「ねぇ…私がリーダーでよかったのかな…」
何の団体のリーダーなのか、そもそもこの世界は何なのか、なんで勝手に口が開くのか。分からないことだらけだ。
そして目の前の男は迷いなく答える。
「うん、お前がリーダーで本当によかった」
その時始めて気がついた、不器用そうに笑顔を向けている男に見覚えがないのも当然だった。その事実の発覚と同時に意識を手放す間際、私は笑顔で返す。
だってこれは―――
「ありがとう」
「夢……だったの?」
体を起こすとそこはいつもと変わらない自室。ふと時計を見ると9時を回っている、既に遅刻は確定だ。
とりあえずリビングに行くと、母親が話しかけてきた。
「もう、やっと起きたの?うなされてたし心配したよ?」
「…うなされてた?」
「ええ、それはすごく」
そう言われ夢のことを思い出す。破壊された街、戦う私と、銀髪の彼。思い出そうとするが大事なところにもやがかかって思い出せない。
「どうしたの?どこか痛む?」
「あ、いや……そういえば学校は?」
「電話しておいたよ、今から行く?」
そう言われて少し考える、普通に考えれば行くべきなんだろうけど、頭から夢のことが離れない。倦怠感もあるし、休めるのなら願ってもない。
「あ…うん、ちょっと今日は寝てたいかも」
「そう…たまにはいいんじゃない?」
母は厳格ではなかっけど、それでも学校には行くべきだと言うような人だった。つまりそれほどひどい顔をしているんだろう。
「ちょっと顔洗ってくる」
それだけ言ってリビングから洗面場に行く、三面鏡には普段と変わらない自分の顔がある。けれども少し顔はやつれている、おまけに髪もぼさぼさだ。
痛まないよう丁寧に髪を解かす、黒髪のストレートは少しの枝毛でもおかしく見えるから特に念入りにしないといけない。
一通りセットをしてもう1度考える、夢のことだ。
微かに残る記憶を辿る、私は普通の日本人で髪の毛も目も黒い、だけど夢の中ではサファイアのような不思議な青色だった気がする。
「うーん……」
わけがわからず思わず唸ってしまう。
普段ならただの夢だとあしらうのに、今日のは特別頭にこびりついている。特にあの銀髪の男は誰だったんだろうか。イマイチ年は分からなかったけど、少なくとも知り合いにいる顔ではなかった。
「咲希ー!ちょっといいー?」
「はーい!」
リビングから母に呼ばれる、顔を拭いてからリビングに行くと、母に1枚の手紙を差し出される。
「これがポストに入ってたんだけど、知らない?」
「うーん、なんだろ」
手紙を送ってくる人など心当たりはない。私だってスマホを持ってるし、友達とはトークアプリで話すのが普通だ。ーーー間違いじゃない?そう言おうとする間際に、頭にこびりついた夢のことがひっかかる。
「あっ、それもしかしたら私かも」
根拠もなくそんなことを言って母から手紙を取る。この手紙がもやもやを消してくれるのではないか?そんな淡い期待があった。
考えもそこそこに封を切る、中には3つ折りの紙が入っており、開くとそこには大きく「監視欲」とあった。
「ッ!」
思わず体がびくんと跳ねる、嫉妬深いわけではないが、仲のいい友達が別の子と話していたりするとつい目で追ってしまう。それだけだ、それだけなのになんだろう、胸がゾクッとした。解消どころか余計にもやもやが増える。
「咲希?どうしたの?」
母に呼ばれていることに気づく、けれどなぜか意識はだんだん薄れていく。
「咲希、咲希!」
返事を使用とするも強力な睡魔に敵わずに意識を手放す。フローリングの感触を味わいながら、静かに眠りに落ちた。
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