第2話
街に人を呼んで外貨を稼ぐにあたって、最大の問題はこの領地自体の異常性を人に知られたくないということだ。
ゆえに、観光客を受け入れる専用の場所を作らなければならない。
「……ということで、ここに観光地区としての街を作る」
俺が指し示したのは、この領地の一番南にあたる部分。
そこは、狭い渓谷の中を蛇のようにうねりながら続く街道の一角であった。
「ははぁ、たしかここは前に関所を作ったあたりですニャ」
真っ先に反応したのは、ムスタキッサであった。
この領地の関係者でも最も頻繁に領地の外へと出入りしているだけに、誰よりもこの場所になじみが深いのだろう。
「このあたりは、この領地でいちばん魔力が薄い。
おそらく植物を育てても勝手に魔法植物化することもないだろう」
いくら精霊たちでも、ひとつの地区に育つすべての植物を監視するのは辛い。
ならば、最初から魔法植物が生まれないようにする措置をすればいいのだ。
「それと、前に作った関所の表面に魔力を遮断するコーティングがあっただろ。
あれをさらに強化してこの街を囲う。
観光地区へと入り込む魔力をすべてカットするんだ」
「えー 魔力遮断しちゃうのぉ? そんな事したら、あたしが遊びにゆけないじゃないよぉ!」
俺の計画に反対意見を唱えたのはエディスだった。
こいつは元が貧弱なので、魔力の薄い場所で活動するとすぐに体力を消耗してしまうのだ。
ちょうど、高い山に登って空気が薄くなると気分が悪くなるのと似たようなものらしい。
「むしろお前は遊びに来ないほうがいい。 どんなトラブルを引き起こすか想像も出来んからな」
「ひっどぉい! 差別だよぉ!!」
なおも文句のありそうなエディスだが、俺が無言で頭をつかむと、とたんに強張った顔になって押し黙った。
最初からそうしていれば怖い思いをせずに済むものを。
無駄にわがままを言うからそういう目に合うのだ。
「……というわけで、関所から南にあるこの場所にもうひとつ関所を作り、二つの関所の間を観光地区とする。
で、大体の計画のイメージがコレだ。 頼めるか、パーヴァリさん」
俺が簡単にイメージした図を提出すると、はす向かいに座っていた巨大な甲冑が大きくうなずいた。
パーヴァリさんはアーロンさんやマルックさんと肩を並べる大精霊で、この領地の地の精霊のトップである。
基本的にこの領地の建物すべての建築と管理者であり、前に関所を作り上げたのもこの精霊の仕事だ。
最近はアーロンさんの真似をして、自分で作った甲冑をリビングアーマーに仕立て上げ、そこに取り付いて活動している。
ちなみに嫁さんがいて、こちらはこの領地の建物の内装の統括者だ。
「では、私どもは出来あがった街にどんな店を入れるのかを検討しますニャ」
「あぁ、それなんだがな……こんな企画はどうかと思っているんだ」
俺が差し出した計画書を手に取ると、ムスタキッサはホゥと驚いたような声を上げる。
「スパですか、それはいいですニャ!」
「やはりそう思うか。 この領地の特産品をそのまま売り物にするのは、少々危険だと思ってな。
それならば、その恩恵を体験できる高級リゾートにしてはどうかと思ったんだ」
「全面的に賛成ですニャ。 ただ、そうなるとお土産用に効果を薄めたものも販売したいところですニャァ」
「そのあたりは精霊に魔力を吸い出してもらって、聖油をただの精油に近づけることができるらしい」
もっとも、その手の作業はあまり好きではないらしく、精霊たちの間で押し付け合いが始まっているとかいないとか。
彼らの感覚というものはどうも人間にはわかりづらいものがある。
「では、問題ありませんニャ。 この話、ハンネーレ王女にご報告しても?」
「むしろ、彼女には積極的に宣伝してもらいたいところだ」
「では、そのようにいたしますニャ」
そしてムスタキッサが退出すると、パーヴァリさんの姿はすでに消えていた。
おそらく現場の地質調査と基礎工事の準備に入ったのだろう。
残っているのは、頬を膨らませたままのエディスただ一人。
「なんだ、まだ拗ねているのか?」
「すーねーてーまーせーんー」
「思いっきり拗ねてるだろうが……ほら、新しい顔できてるぞ」
俺が机の引き出しから出来上がった顔を取り出すと、エディスは態度をコロッと変えて飛びついた。
「えぇー ほんとう!? あーん、この顔、目がパッチリしていてかわいいー」
「あと……街が出来てから人を招くまでしばらく時間ができる。 その間ならば他の奴に迷惑をかけない範囲で遊んでいいぞ」
「やったぁ! 楽しみぃ!!」
まぁ、大事なところにはあらかじめエディス避けの結界を張っておくんだがな。
俺は意味も無くはしゃぎまわるエディスを眺めながら、次にやるべきことについて思考をめぐらせるのであった。
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