第3話
「愛人を前提にしてぼきゅとお付き合いをするでしゅ!!」
エディスを見るなり、ハンヌ伯爵の目は一瞬でハートマークとなって輝いた。
「血迷ったか、このロリコン!!」
「ぷげらぁっ!?」
伯爵の顔に容赦なく鉄拳を叩き込んだ俺を、一体誰が責めることが出来るだろうか?
ちらりと目をやると、意識を取り戻した護衛たちがサッと横を向く。
よし、俺が正義であることは確定した。
「あぁー こらぁークラエスぅ! あたしの出番とっちゃだめぇ!!」
「やかましい、駄目精霊。 頭砕くぞ」
「全面的にごめんなさい」
殺意全開で睨みつけると、エディスはすぐさま頭を床にこすりつけた。
俺は迷わずその頭を足で踏みつける。
横でヒデェと伯爵の護衛が呟いているが、無視だ無視。
こいつはな、幼女じゃなくて300年以上生きている神経が鋼鉄製のババアだぞ。
ついでに知性は痴呆症の老人並みだが、年寄りでもありやしねぇ。
「おい、エディス。 貴様のせいで、シリアスな空気がどっか吹っ飛んだのだが、それは覚悟の上の行動だろうな?」
「その件についてはぁ、全面的に申し訳ないとおもってますぅー
でもぉ、クラエスの書いた魔法少女の物語がすごくかっこよかったのぉー」
まぁ、そういうことなら仕方が無い。
俺はエディスの頭から足を下ろすと、年代物の椅子にどっかりと腰を下ろした。
「げふっ……く。クラエス……きしゃま……主である我輩を殴ったでしゅね!?」
「主が血迷ったら、それを正すのが臣下の勤めですが何か?」
起き上がって文句を口にした伯爵を、俺は視線だけで黙らせる。
「あ、そ、そうだ!
やい、そこの伯爵ぅ! あたしの主であるクラエスを苛めるとは、許しがたき悪の所業なのですぅ!
この魔法少女エディスちゃんが成敗なのですよぉ!」
そう告げると、エディスはどこから持ち出したのかボクシングのグローブを取り出して伯爵に投げつけた。
「まて、お前、魔法少女じゃなかったのか!? なぜ魔法か魔術で勝負しない」
「えー だってぇー 攻撃魔術はぜんぜん使えないしぃ、この間のクラエスとアーロンさんの試合、かっこよかったんだもん」
その台詞に、アーロンさんが照れたように頬を指で掻く。
だが、俺はそんな台詞でごまかされたりはしないからな。
「じゃあ、お前ボクシングのルールは知っているのか?」
「え? 相手が動かなくなるまで殴ればいいんでしょ?」
こいつ、死人を出す気まんまんだな。
そもそも、ボクシングは憎しみをもって闘うことの許されない紳士のスポーツだぞ!
まったく……何かあるとすぐに感化されて感覚だけで突っ走りやがって。
ある意味、ブタ侯爵よりよほど扱いにくいぞ。
そして、感化されやすい人物といえば、ここにも一人。
「んほぉ!? つ、つまりボクシングの勝負で我輩が勝利したら、エディスちゃんは我輩の嫁に!?」
「誰もそんなことは言ってないから!」
ついに伯爵の護衛からも突込みが入るが、本人はまったく聞き耳を持たない。
ぐふぐふとくぐもった声を呟きながら、手にバンテージも巻かずにボクシンググローブをはめようとしている。
……駄目だ、こいつら。
「わかった。 場所はセッティングしてやるから、好きなようにやれ。
あと、エディス……判っていると思うが、お前が負けたら俺との契約が解除されて伯爵と守護精霊の契約を結ぶことになる。
もちろん、それで構わないな?」
「えぇぇぇぇっ!? そんなの聞いてないよぉ!!」
おもわず悲鳴を上げるエディスだが、俺としてはぜひとも伯爵にがんばって欲しいところだ。
見れば、俺の次の守護精霊候補の筆頭であるアーロンさんも親指を立ててニヤリと笑みを浮かべている。
「さて、伯爵閣下。 そろそろ客室にご案内しますので、護衛の方にボクシングのルールや戦い方について教わるとよいでしょう。
私は早速戦いの舞台を整えようと思いますので、しばらく席を外したいと思います」
「うむ、よきにはからえでしゅ!」
そして、俺と伯爵はかつて無いほど悪意の無い状態でがっしりと握手を交わしたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます