囚人たちの脱獄弁護士ゲーム

ちびまるフォイ

楽で弱い弁護士か、難しく強い弁護士か

監獄の囚人たちはみな今日が裁判の日だった。


「囚人ども! 貴様らには人権もなければ弁護人もない!

 だからこの監獄から弁護士を脱獄させられた人間には

 そいつ専属の弁護士となって裁判に挑むことをゆるそう!!」


「「 おおおお!! 」」


囚人たちは野太い声を上げて監獄へとつっこんだ。

ここは弁護士監獄。


全国各地から捕まった弁護士が収監されている。


「よし、いい弁護士を脱獄させて、必ず罪を軽くしてやる」


囚人はこの日のために刑務作業の合間に弁護士雑誌を読みふけった。

そのかいあって、腕利きの弁護士の顔は覚えていた。


ほかの囚人は一番脱獄が簡単そうな牢獄を見つけては脱獄に協力している。


「ふっ、バカめ。あんなザコ弁護士を雇ったところで、

 罪が確定している俺らの弁護できっこない。

 脱獄させるなら腕利きの弁護士じゃないと……」


制限時間もあるので牢獄をまずはぐるりと一周。

腕の立つ弁護士の牢獄ほど厳重に、脱獄には時間がかかりそうになっている。


「あ、あんたは……!!」


「ミーのことを知っているんですか?」


「知っているもなにも、国際弁護士としても名高い

 無敗弁護士じゃないか!!」


弁護士雑誌でも特集が組まれるほどの有名な弁護士。

ほかに投獄されているどの弁護士よりも優秀だ。


この人に弁護してもらえれば、俺の罪も軽くなるに違いない。


すぐに牢獄の格子を削っていく。


「ユーはミーを脱獄させる気かい?」


「もちろん! あんたならどんな裁判だって勝てるからな!」


「脱獄させようとした囚人は前にも、その前にもいた。

 でも、あまりにこの牢獄が頑丈で手のかかるものだから

 ついぞミーを脱獄させられた人は誰ひとりいないよ」


「知ったことか! そんなの、俺以外がみんなポンコツだっただけだ!」



『制限時間 のこり1時間だ 虫けらども!!』


トランシーバーから守衛の声が聞こえる。

格子は削っても削ってもびくともしない。


「くそ!! どうなってる! ぜんぜん外れない!」


「悪いことは言わない。高嶺の花をのぞむよりも、

 手近な弁護士を脱獄させて弁護してもらうといい」


「こんなところで諦められるか!!」


今度は床を削って牢獄に続くトンネルを作る作戦に切り替えた。

格子よりも床の素材はもろいので掘ることはできるが問題は……。



『のこり30分だ、このクズども!!』



トランシーバーから聞こえる声が焦らせる。


「まだ残り時間に余裕はある。

 ここで失敗して弁護士ゼロで挑むよりも

 簡単な弁護士を脱獄させて、弁護してもらうほうが……」


「まだ時間はある!!」


囚人はわき目もふらずに必死に掘り進めた。

ここでほかの牢獄に目移りしてしまったらもう時間が間に合わない。


そして……。



『タイムアップだ!! 戻ってこい、糞カスどもが!!!』


「……らじゃー」


トランシーバーに返事をした。

掘り進めた穴は牢獄の中に到達することなく終わった。


「くそ……もっと早くここに来ていれば……。

 最初に一目散にここへ到着していれば……」


「ユー、待ってくれ。それだけ置いておいてくれ」


弁護士に渡すと、囚人はとぼとぼと裁判所へと連行されていった。

裁判所では守衛が見守る中、重々しい空気で裁判が行われていた。


「では、囚人105番。弁護をしてもらおう!

 ……ん? 君、弁護士はどうしたのかね?」


「それは……」


「裁判長、この虫け……囚人は弁護士を脱獄させられませんでした。

 なので弁護士はいません」


「わかりました。では、君の罪は最初から少しも軽くならないまま……」


裁判長が木槌を鳴らす寸前に、守衛のトランシーバーが鳴った。



『みなさん、聴いてください。決断を出すのは早すぎます』



トランシーバー越しに、あの弁護士の声が聞こえた。


『彼は時間いっぱいになるまで必死に穴を掘っていました。

 手は血まみれになって、みんな低い目標にシフトする中

 彼だけはずっと一途につらい作業にのめり込んでいました!』


「ふむ……」


裁判長は無敗弁護士の弁護に耳を傾ける。


『ミーが何度もあきらめろと言いましたが、彼はあきらめなかった!

 それは自己保身によるものではありません!

 彼自身の心の清らかさと努力家な性格がそうさせたのです!!』


トランシーバー越しの大弁護に裁判所では拍手が巻き起こった。


「よろしい! 被告を無罪放免とする!!」


こうして、無敗弁護士の経歴に白星がまた1つ追加された。




裁判が終わると、元囚人はふたたび弁護士の牢獄を訪れた。


「ありがとう。あんたのおかげで無罪になったよ。

 でもどうして脱獄できなかった俺を弁護する気になったんだ?」


「ユーの努力に心うたれたのさ」


「……あんたみたいな優しい弁護士もいるんだな。

 投獄されてるのがわからないよ」


「ミーが悪いんじゃない。ミーは荷物を持てと頼まれて

 たまたまそれが麻薬の密売に関与していると投獄されたのさ」


弁護士は悔しそうに語った。


「ところで、ユーはどうして投獄されていたんだい?」





「俺は、とある人間に荷物を持たせて麻薬を密売しようとしたんだ」



「元凶おまえかい!!!!」


弁護士はトランシーバーを元囚人に投げつけた。

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