おばけの話、聞きたいですか
ユキ マツ コトブキ
第1話 ポルターガイスト
ポルターガイストと聞くと、宙に浮く何かしらを思い浮かべます。なんなら浮いていたそれがそれなりの勢いで飛んで壁にぶつかることも珍しくないでしょう。
しかしやはりそれは映画の派手な演出の成せる技で、私とポルターガイストの出会いは非常に静かなものでした。
場所はキッチン。時刻は23時程度。現れたのは、飲み物を求めて冷蔵庫に用がある私。
冷蔵庫に手を伸ばすか伸ばさないかのそのとき、調味料、サラダ油、調理用ワインが問題なく並べられているはずのその風景に何か違和感を感じました。
近所のスーパーで一番安かった調理用ワインボトルが、まるで誰かが手に持って持ち上げる直前のように、斜めに傾いていたのです。
浮いてはいません。飛んでもきませんでした。
正直、書いて表現するのも困難ではありますが、どうしても説明できない角度でボトルは傾いており、誰もいないけれど誰かが持っているかのようでした。
しかも、仮に誰かが持っているとして、その手を離せばキッチン台から落ちそうなほど、危機的な角度でワインボトルは身を乗り出していたのです。
私は目の前の光景を説明する答えを求めて、脳内の引き出しを開けては閉めてを繰り返していました。
すると突如ワインボトルが動きだし、そっと誰かが元に戻すようにサラダ油の隣に戻ったのです。
私は飲み物を欲していたことを忘れ、速やかに自室に戻りました。
実はこのワインは曰く付きの年代もの、なんてたいそうなオチもございません。
ワインボトルが自室まで追いかけてくるようなこともなく、その後何事もなかったのように、シチューなどに入れて美味しくいただきました。
本当の体験談とは案外そんなものです。
この前後、不思議な体験はいくらかありますが、このささやかな出来事が私の体験で一番『気のせい』ではないハッキリしたものであり、唯一のポルターガイスト体験であります。
この後に続いてお話する出来事は『気のせい』だったかもしれません。
おばけの話、聞きたいですか。
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