第42話9月3日 オレンジ色の時間
しばらくの時間が過ぎる。言葉を詰まらせる秋月の次の言葉を待つことしか、僕にはできなかった。
「ヒナからさ。よくお前の話聞いてたんだ。同い年の新人が来た、世話が焼けるんだって。楽しそうだったな。」
秋月がこちらに振り向き楽しそうに語り出した。
「城崎とも職場一緒だったんだって?あいつもあれからずっとヒナと一緒だったしな」
夕日に照らされる秋月は、いつも見ていた以上になんだか大人びて見えた。こんなにも色んなことに秀でていた秋月がなぜ。何故だか、秋月を直視してはいけないような、そんな空気が襲ってくる。僕の知りたかった本題に触れる。
「柊也が居なくなって、俺ら空っぽになったんだ。」
苦い顔をしながら秋月が語り出す。その手はそっと、自分の首を触っていた。
「分かってた。この後どうすりゃいいかとかさ、俺も一応男だし。ただ、言えなかった。あんなに好きだったのに、いつの間にかそんなのとっくに通り越してた。あれは、3月の雨の日だったっけな。ヒナに『一緒に死のう』って言われた。」
僕は秋月の横に並び、一緒にグラウンドを見おろした。
「なんて返事したの?」
「『分かった』とだけ。」
「柊也が居なくなって、俺自身支えがなくなったんだよ。こいつの目醒めるまではって必死になってたとこあったんだ。その前にあっけなく逝ってしまった。それも俺の手で、アイツの前で。もう、何度も夢に見たさ。なんであの時柊也を助けなかったんだって、親友見捨てた俺のこと、こいつはどう思ってるのかって。恨みながら死んだんじゃないかって。その罪滅しもあって医者を目指した。柊也が居なくなってさ、生きてる意味が急に分からなくなった。」
「ヒナと約束した日があった。その日までに、色々と整理しようって。でもさ、アイツ、新入社員のお前の教育するようになってから、なんだか楽しそうでさ。電話で話す声が、だんだんと昔みたいに明るくなっていったかな。ヒナの親友として、親友の遺した最愛の人として、ヒナを死なせるわけにはいかないって思って。あの日、、、」
そこで秋月は止まった。
「ヒナちゃん、何日か休んだ日があった。地元帰ったんだって。秋月、辛いならもう話さなくていい。なんとなく、その先は分かったから。ヒナちゃんの環境が変わっても、秋月は変わらなかった。だから、約束よりも前に、残して逝ったんだな。そしたら、知ってる奴はみんな、次はヒナちゃんじゃないかって警戒するから。そうだろ?」
秋月は笑って首を傾げた。
「僕は、ヒナちゃんが最後に会いたかった人に会いたかった。ずっとそれは柊也なんだと思ってたよ。だから、この時間に戻ったんだって。なあ秋月、青い石のペンダント、覚えてる?」
「あぁ。覚えてるよ。」
「勿忘草、青い花のペンダントだ。俺が死ぬ前に渡した。」
勿忘草の花言葉は、”私を忘れないで”。
遺書を残して居なくなった先輩の思いは、いつの間にか僕に継がれていたのだ。
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