第18話11月15日 なかなか本音を言わない君へ
球技大会が終わり、クラスメイトが続々と教室に戻ってくる。
着替え終わり、森岡さんと楽しそうに話すヒナちゃんを見て心配になった。
「ヒナちゃん、大丈夫?」
なんの躊躇いもなく、尋ねた。
「ん。大丈夫だよ?冬至、どうしたの?そんな怖い顔して。」
僕は、秋月や柊也とは比べものにならない。今聞いたのだって、きっと興味本位だし、「大丈夫なんかじゃないよ」と返されたところで、きっと何もしてあげられなかったはずだ。
「ヒナちゃん。吹奏楽部、行く?」
それまでの二人の会話が途切れ、静かな空気が流れた。
「春奈、ゴメン。やっぱり部活行くよ。逃げたくない。」
冬至、部活行こ。っと午前中のうちに柊也が乾かしたであろうカバンを持ち上げ、ヒナちゃんが教室を出る。心配そうにこちらを見つめる森岡さんに声をかけヒナちゃんの後ろを追いかけた。
「ヒナちゃん、待って!」
暗い渡り廊下を黙々と進むヒナちゃんに追いつく。
「今日、部活無理しないでよ。ほら!新聞部は?みんないるし、気紛れるんじゃないかな?誰が犯人か分からないなら、なおさら吹奏楽は…」
「私だって!…」
急に前を歩いていたヒナちゃんが立ち止まり、下を向きながら振り返る。
「私だって、本当は部活行きたくない。でも、思うツボなの。きっと。私で遊んでる人はこれが目当てなの。だから、負けない。」
それだけ強い言葉を言うなら。なぜそんなに僕と顔を合わせようとしないんだろう。
10年後の僕らを思い出す。仕事を辞めたいと言い続けていた先輩に僕が見習いでついた。噂では「辞めたいらしい」とは散々聞いたものの、本人の口からは一度も聞いたことはなかった。むしろ、先輩が仕事のやり方や楽しさを一生懸命教えてくれた。そんな先輩からは「この仕事が好き」という感情しか伝わらなかった。
『なぜ辞めたかったのか』それは最後まで聞くことは出来なかった。僕らの間には信頼関係と、僕からの一方的な感情だけが立派に構築された。あれはその矢先の出来事だった。
音楽室に着き、楽器の準備をする。球技大会後のクラス毎の打ち上げなどで、その日は部員の半分以上が欠席でほぼ自主練習で終わった。
秋月は、部活に来なかった。部活どころか。下手をすると朝のHRから僕は一度も秋月に会っていなかった。
楽器を片付け、音楽室を出る。隣にはいつも通りのヒナちゃんがいた。
静かな廊下を歩き、玄関へと向かう。こちらもいつも通り、柊也が自販機の前に腰掛けていた。
優しそうな顔でにひゃりと笑いながら「お疲れさま!さ、帰ろ」と僕らを促す。
下足箱で靴を履き替えてると、肩を叩かれた。振り返ると柊也が真面目な顔でヒナちゃんを見ていた。
「冬至。話がある。後で家寄っていい?」
僕だけに聞こえる声で目は離さず。その仕草だけで、話の内容に心当たりがあった。
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