第13話 9月3日 後夜祭

 学祭最終日。吹奏楽部のステージは昼からで、それでも新聞部の作業のほとんどを夏樹や森岡さん、この日は珍しく遅刻しなかった柊也が引き受けてくれていた。


午前中を適当に過ごし、音楽室に向かう。

少し早めに着いた気がして音楽室のドアを開ける。ベランダに秋月がいた。

「秋月、楽器準備しよう…」

 近寄って気づく。柱の陰に隠れて見えなかったが、秋月の他に誰かいる。

僕の声に秋月が振り向く。その瞬間、そこにいた女生徒が音楽室の中へと走りこんで来た。そして僕と目を合わせることなくそのまま僕を追い越し音楽室を出て行った。

「え?秋月、ごめん。なんか邪魔した?」

「いや、いい。助かった。」

 そう言い直し、秋月は再びベランダの手すりにもたれかかった。

「あの人、3年の人だよね?」

 学年ごとに色分けしている靴の色が、その走り去った人は青の僕らと違い、3年の緑だった。3年生がなぜここに…

「うん。こういうの、苦手。答えられないの、辛い。」

 そう言い、頭を抱えて秋月がその場にしゃがみ込んでしまった。慌ててベランダに駆け寄る。

「秋月、大丈夫か?」

「断ったの俺なんだけどね。俺が辛くなってちゃおかしいな。」

 そう言い、またいつも通り、困った顔で笑った。


 昼からの吹奏楽部のステージも終わり、久しぶりに新聞部が全員集まったのは5時を回った辺りだった。

 後夜祭の取材にグラウンドに出る。たくさんの生徒がそこかしこで楽しげに談笑をし、その中心には木の矢倉が組んであった。

「後で生徒会長が火をつけるんだよ。毎年恒例なの」

 そう隣で森岡さんが解説をしてくれた。振り返ると、柊也、秋月、ヒナちゃんがいないことに気づく。

「あれ、他のみんなは?」

「秋月はあそこ。」

 夏樹が指をさしたのは学校の屋上だった。カメラを持つ人影が見えた。

「後の2人は、うん。まぁ、2人きりにしてあげようか。渡辺君、今日は遅刻しなかったよね。」

 森岡さんの言葉に、胸がざわつく。


 その後、生徒会長によるキャンプファイヤーの点火、フォークダンスと続き、僕のこの学校での初めての学校祭が終わった。


 真っ暗な廊下をグラウンドに出ていた3人でPC室に向かう。すでに電気が付いており、そこには秋月がいた。ドアの音でこちらに振り向いたが、僕らを見るなり「おつかれ」と一言、再びパソコンに向き直った。

「柊也たちは?」

 夏樹の問いに首をかしげるだけで秋月は答えた。


 その後、いつもの自販機の前で柊也とヒナちゃんに会った。なんだか、いつもの2人とは違う気がした。僕の大きな勘違いかもしれないが。

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