第3話 「どっちにするの?」って言われるはずだったのに
「ハルー♡」
「うん、このチャット気持ち悪いね『ごめんなさい。私、結婚してるし高校生の子どももいるんです。パンデモニウム・ファンタジー・クエスト18でゲームする時に、ヒーラー足りなかったら呼んで下さいね』みたいな返しでいいかな?」
「そそ。万年発情期のニンゲンって面倒よね。私はゲームしたいだけなのに」
えっと。ハルが遊びに来た。寝ぼけたモモが喋ったのを、ハルが聞き逃さなかった。僕は座椅子&口述チャットマシーン「予備」に格下げされた。
モモはしれっと「レポートやばいんでしょ?」とか言うし、ハルも「モモちゃんがお膝に乗ってくれるとか夢みたい。私、今日泊まってもいいかな?」とか目の色がおかしい。
愛猫と大好きな彼女が仲良しになった。嬉しいはずなのに、なんなのこの疎外感。しかも、あいつら、ガールズトークとかしてる。僕の家なのに、居場所がないってどういうことかな。
「レポートの資料を図書館に予約してあるから、受け取ってくるね」
「あ、待って。私、一度帰って、お泊りセット持ってきても良い?」
「ニンゲンは不便ねー。それ無いと、ハル明日困るんでしょ。行ってきなさいよ」
というわけで、レポートやる時間ができたはずなのに、結局また「予備」の出番だ。
しかも、ハルなら指示しなくても分かることを、説明するのが面倒らしくて、「これだから男って」とかdisられる始末だ。
「なあモモ、なんでハルはお前が話すの気にしないんだ」
「馬鹿ね、仲良しとおしゃべりできた方が楽しいでしょ? 何か問題でも」
「そういうものなのか」
「猫的にはそういうものね。ハルは見どころがある」
「彼女を褒められるのは嬉しいけど、なんなのその上から目線」
「あたしが完全無欠だから?」
無駄口叩きながら、モモは定型文でPTに「避けて」とか「次のターンブレスです」とか、話しかけつつ、バフの維持をしつつ回復蘇生をしまくる。ゲーム実況を目の前でやられてる感じだ。上手いのは分かるけど、僕は図書館に行きたい。あと、ハルといちゃつきたい。
「おじゃましまーす」
ハルがスーツケース転がしてきた。君、何泊するつもりなの。返せよ、彼女が初めて泊まりに来た男子のわくわくを返せよ! ハルの目当てはモモだし、モモはハルの方が高性能だとドライに乗り換えるし、なんなの!
モモとハルに「図書館行けば?」みたいに空気出されてるし、どうせならハルと一緒にスーパーとか甘酸っぱいことしたいのに、これ図書館の帰りにお使いもやってくるパターンですよね。なんなの!!
図書館に行きました。レポートも捗りそうです。
帰りにスーパーにも寄って、冷蔵庫いっぱいにしました。荷物超重かった。僕1人なら適当なもの食べるけど、ハルにそんなもの食べさせられないし。
夕飯も作った。彼女と一緒に台所イベントとかを返せよ!
モモは食事とトイレを済ませて熟睡中。僕らは夕食をとっている。
「ごめんね、全部やらせちゃって」
「いや、分かってる。モモに抗えなかったんだろ」
「そうなの。嫌われてるのかなって思ってた子が、あんなにお話ししてくれるし、ずっと膝の上にいるし、楽しくて」
「ハルが楽しいならいいけど。それにしてもスーツケースには驚いた」
「うん。モモちゃんが、ご両親出かけてる夏休みが大事なんだって話してくれたから、もう合宿みたいな感じだよね」
「合宿」
「今日はご飯作ってもらっちゃったから、明日は、お弁当作るね。朝のうちに、夕食の支度もして、お弁当も用意したら、ネトゲする時間が増やせるじゃない?」
「ハルのお弁当とか、一緒に夕食の支度するとか、超幸せなんだけど、モモのネトゲのためにという動機が……」
「そんな複雑な顔しなくても、モモちゃんが幸せ、私も幸せで、あなたも幸せでいてくれたらいいなあ」
「モモもそうなんだけど、そういう時に、超いい顔するのずるくない?」
「私達の
「帰ってきて、人間の世界へ帰ってきて」
ハルの頭の中は、夏休みにモモとたくさん思い出を作ることで95%くらい占められていて、僕のことは後回しになってるのは分かるけど、それでも、電話しなくても目の前にいてくれて、夜になっても「また明日ね」って帰っていくわけでもないことは、嬉しいのは認めるしかなくて。同棲みたいなこと出来るのはすごく嬉しい。
モモに感謝しなきゃいけないかなあ。
いや、一日モモと遊んで、ハルが疲れて朝まで起きないので、色っぽいこと一切無いのは、年頃の男子として不満です。モモに抗議してもまた万年発情期って言われるんだろうな、ああそうだよ、この苦しみをお前らにもわけてやりたいよ。
ネトゲと僕、どっちにするの?
モモと僕、どっちにするの?
そんなこと口にすると、モモには憐れまれ「猫的思考が足りない」って罵られ、ハルには「モモちゃんにヤキモチやくの?」って、爆笑されそうだから、誰にも言えない。フラストレーションばっかたまる。
うちのモモが、寝ぼけてしゃべったのが全部悪い。
そして、夢のような夏休み、楽しい時間は加速度的に過ぎていく。
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