シスタークエスト
上村 俊貴
全ての始まり
後方で王国兵の攻撃魔法の光が煌めく。
「ぐっ……!」
王国兵の魔法が直撃した仲間の一人がうめき声を上げて倒れ伏した。
「グランツっ!」
今日だけで何度目かもわからない仲間の死に、一瞬敵から意識を離してしまったハヤトにも、王国兵の魔法が襲い掛かる。
「ぼさっとするな! 次がくるぞ!」
ナオミの声で自身に迫る魔法に気がついたハヤトは、すんでのところで横に飛び退いてやり過ごした。
その直後、先ほどまでハヤトいた空間が爆発し、冷や汗が出る。
「……ッ!」
「何してる! 死にたいのか!」
「……悪い」
素直に謝るハヤトだが、その声に謝意は感じられない。
「はあ、まあいい。それで儀式場までは後どのくらいだ?」
「後、五キロってところだな」
「了解した」
追手を警戒しながら、深夜の森を駆け抜ける二人。
木々に阻まれ月光が届かない森の中は、常人なら視界が効かないはずだが、二人の速度は平野でのそれと変わらない。
「…グランツも死んじまったな、姉ちゃん」
「そうだな、惜しい奴を亡くした。これで残る帝国騎士は、団長である私一人だ。それと、姉ちゃんはやめろ」
「いいじゃねーか、もう俺ら二人だけだぜ?」
そういって、駆ける速度はそのままに、おどけてみせるハヤトだが、多くの仲間を失ったショックは大きいらしい。
その様子はどこか痛々しかった。
「二人だけでもだめなものはだめだ。今の私は帝国騎士団団長であり、お前は、帝国魔法使い団団長なのだからな」
「はいはい、そうでしたー」
いつもならここで、「はい」は一回! と厳格な姉の注意が入るはずだが、今はそれが無かった。そのことを怪訝に思ったハヤトは、ナオミに視線を向ける。
「……そう、二人だけとなっても私は帝国騎士団団長だ」
そこには、深刻な表情で、自分に言い聞かせる様につぶやく姉の姿があった。
その様子を見たハヤトふざけた雰囲気を消し去り、硬い表情で問う。
「敵の数は?」
「…そう、私は帝国騎士団団長――」
「騎士団団長! 敵の数は!」
「! どうしたいきなりそんなに大きな声で、敵に位置がばれたらどうするんだ!」
「それはこっちのセリフだ、このバカ騎士団団長! 一回で気づきやがれ。それで、敵の数は?」
「それはすまなかった。そうだな、私たちに追いつけているのは、約四十といったところか。儀式場まではあとどれくらいだ?」
「後一キロもない」
ハヤトの言葉にナオミは安堵した。
「そうか、それなら逃げきれるな」
「ああ、おそらくな。しかし、一つ問題がある」
「問題?」
「ああ、術式を安全に発動するには、最低でも三人の術者が必要だ。俺と騎士団団長なら二人でも発動できないこともないが……」
そこで考え込むように言葉を切るハヤト。ナオミは怪訝な顔で見ながら先を促す。
「おそらく、転送が完了したとき、俺たちは魔力を失っている」
「どういうことだ?」
「つまり、三人発動してもほとんど魔力を使い果たす規模の術式を、二人で無理やり発動するわけだ。結果として、俺たちは全ての魔力を使い果たすことになる」
「そうなれば魔力は二度と回復しない、か……」
神妙な面もちでハヤトの言葉引き継いだナオミは、一転して明るい口調で、言い放つ。
「まあ、私とハヤトなら魔力が無くてもどうにかなるだろ?」
「はあ、姉ちゃんの楽観主義にも困ったもんだね」
そう言いながらも満更でもない様子のハヤトは気を取り直すように頬を叩く。
「じゃあ、どうにかしますかね!」
そう言って、愉快そうに笑った。
ほどなくして、深夜の森は極光につつまれる。
大陸歴一〇九七年、弱冠十九歳にして帝国騎士団団長となった当代最強の魔法騎士と弱冠十六歳で帝国魔法使い団団長となった天才魔法使いは、世界からその姿を消した。
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