六月二十二日(木)晴れ☂
今日は、昨日書いたとおり、
学校から茜さんのお墓までは少し遠くて。
着いたころには、夕方で。
空良先輩は、ポツリポツリと、言葉を零した。
茜さんに、なのか、私に、なのかわからなかったけど。
茜さんの死を信じたくなくてお墓参りに来れなかったこと。
やっと、茜さんが死んだことを受け入れられたこと。
いつも茜さんに助けられたこと。
ずっと傍にいれると思っていたこと。
空良先輩の声はすごく穏やかで。
だけど、なにかを堪えているようで。
空良先輩が口を閉じて、お線香も上げ終わって顔を上げたとき。
目に入った空に思わず、空良先輩を呼んだ。
先がクルンとなっていてシュッシュッと筆で描いたみたいなたくさんの細い雲。右斜めのものと左斜めのものが重なり合っていて、色も違うことがあってか、二つ空があるみたいな。
夕空。巻雲の二重雲。
雲が二色できるのは、その雲に高低差があるから。
低いほうは沈んでしまった太陽の光を浴びることができず、暗い色に、高いほうはまだ太陽の光を浴びることができるから、明るい色に。
茜空に、お互い手を伸ばし合っている、みたいな。
だけどそれは重なることはなくて。ただ、すれ違っているだけなわけで。
なんて綺麗で、苦しい空なんだろう。
空良先輩の手が、震えながらもゆっくりとデジカメに進んでいくのが見えて。
見上げれば、空良先輩の頬は濡れていて。
ゆっくり、ゆっくりと、空良先輩の人差指に力が込められていくのがわかって。
いつも真っ暗だったディスプレイに、パッと光が浮かんで。
空良先輩の手が上がっていくのと一緒に、デジカメも上がっていく。
空良先輩の目と、ディスプレイの高さが、同じくらいになる。
そのまま時間が経って。
空良先輩はゆっくりと手を下ろした。
シャッターは、押さなかった。
そのまましゃがみこんでしまった空良先輩の肩は、揺れていて。
漏れ聞こえてくる声に、私はただ、頭を撫でていた。
やっと、ここまで来たんだなって思った。
茜さんが死んだときに泣けなかった空良先輩は、やっと泣けて。
茜さんが死んだときからデジカメの電源を入れることすらできなかった空良先輩が、やっと電源を入れることができて。
ただ涙を流すだけ。
ただ人差指に力を入れるだけ。
それだけかもしれないけれど、まぎれもなくこれは空良先輩にとってはとてつもなく大きな一歩なわけで。
良かったと思うと同時に、お別れが近づいているんだな、と思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます