六月三日(土)晴れ

文化祭。

たまたま芸術部のブースを観に行ったら、一枚の写真が目に入った。

すごく綺麗な、茜色の夕焼け。

その中。逆光でも微笑んでいるのが雰囲気でわかる一人の女の子。

温かくて、どこか甘酸っぱい空気で。

タイトルは、「茜空の少女」。

そのままなタイトルに、小さく笑ってしまった。

だけど、少しだけ引っかかった。


茜空と、じゃなくて、茜空の、なんだな……って。


見ていたら、ふっと隣に人の気配がして。

隣を見たら、例のカメラの人で。

あんまりにも悲しげな顔をしていたから、思わず、どうしたんですかって訊いてしまった。

だって、泣きそうだったから。

泣きそうな人を放っておくほど、自分は冷たくないんだな、なんて思った。

カメラの人は、少し驚いてから、困ったように笑った。


この写真は俺が撮った、大切な写真なんだって。


どうしてその大切な写真を悲しげな表情で見ているのか訊いてみたら、少し笑ってはぐらかされた。

不思議な人。

そう思った。


そしたら突然後ろから肩を叩かれて。

芸術部の部長だというあずさ先輩に、カメラの人が、空良そら、という名前だということ、ちょっと複雑な事情で、今は写真を撮ることができなくなっていること、この写真が実は去年の今頃撮られた物であることを説明された。

部活に入ってるのか訊かれて、入っていないと答えると、梓先輩は私に、頼みごとをしてきた。


空良が、もう一度写真を撮れる状態に戻してほしい。


それが、梓先輩からのお願い事。

どうやら、空良先輩の事情をなにも知らなくて、なおかつ帰宅部だったことが、頼まれた理由らしい。

バイトをやっているんですけど、と言えば、それ以外の日でいいからお願い、とのこと。

なんでも、他の先輩方は受験勉強やら、自分の作品やらで忙しいそうな。

あとは……空良先輩の事情を皆知っているからこそ、深いところまで突っ込めないらしい。

……改めて書いてみると、実は結構深刻な気がするんだけど。

真剣な表情に思わず頷いちゃったけど、水曜日から大丈夫かなあ。

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