第一章3話:決闘 - Victory or defeat -
< 友軍動体検知:
唐突にモニタに表示された文言。それは友軍機の接近を知らせるものだった。
『
その為初期設定の段階で、魔物を敵軍、ワルキア王国所属の機体を友軍と認識するように設定されている。
つまり、今現れたのは。
―――そう考えたその瞬間、リアの視界が暗転する。
限界がきた。既に限界まで振り絞った魔力を、更に寄せ集めて状況把握を行っていたのだから当然だ。
意識が、遠のく。
魔力切れによる意識喪失は、回復術式でも使われない限りは半日近く起きることはできないとされている。
次に起きた時、果たして状況は好転しているだろうか。願わくば、フィアーが無事であればいいが。
―――そんなことを思いながら、彼女は一度の眠りについてしまう。
「ありがとう」
―――意識を失う瞬間、最後に彼女が聴いたのは、フィアーが告げた感謝の言葉だった。
◇◇◇
―――何かが近付いてくる。
紅いマギアメイル―――強襲型
先程調子にのって魔力を回しすぎたせいで、機体の各部に過負荷がかかっていたためだ。全高15mほどの機体、その背部ユニットからは仄かに煙が上がっている。
< 背部ユニット:術式不調 >
「まずったな……今の状況じゃ、引き分けにしかできねェ」
少年は心底残念そうな表情を浮かべる。
その頭の中には自分が負けるという発想はない。ただ、勝てないことだけが悔しいのだ。
「大丈夫かグレア!新手のが一騎近付いてきてる、急いで撤退を……」
複数機いた黒いマギアメイル―――『
通信をしてきた相手はグレアより年上の部下、ジャイブだ。
グレアが砂賊団「ヘパイストス」に入った時、指導教官の役割を担っていた男でもある。
「いや、多分全員じゃ逃げ切れねぇな。そこの機体を持っていこうとなんてしたら尚更だ」
「なんで分かる?」
「強者の勘ってやつ」
グレアは恥ずかしげもなく言い放つ。それが本当のことだからだ。
彼らが所属する砂賊団「ヘパイストス」のなかで、グレアほどの操縦の才を持つものは他にいない。
だからこそ、彼は若くして実働部隊の実質的な隊長を勤めているのだ。
―――あたりの魔力が張り付くような緊張感を帯びている。
理屈じゃなく、感覚で感じる。これから現れるのは魔物なんか目じゃない、本当の化物だと。
「来たか……ッ!」
グレアはそういうと、小高い砂丘の頂上に視線を向ける。
< 敵性動体検知:
―――そこに居たのは白いマギアメイルだ。
牙のように鋭利な装飾が各部に見られ、その手には巨大な槍を持つ騎士のような姿。
他のマギアメイルとは一線を画す、およそ砂漠には似合わない風体の機体がそこには立っていた。
『―――私は、ワルキア王国一等騎士。
「騎士団長だぁ!?」
隊員たちがどよめくのも無理もない。一等騎士といえば、ワルキア王国騎士団において最優とされる位だ。
そして青龍騎士団。王城の守護を一手に任されるほどの練度、そして実力を持つとされる、王都最強の騎士団。
その騎士団の団長がなぜ、このような僻地にいるのか。
そもそもここは王都から最短でも1時間ほどかけなければ着けない距離だ。
例えあの謎の音が王都まで響き、それを聴いて来たのだとしても到着が早すぎる。
そんな動揺を知ってか知らずか、白いマギアメイルから声が再び響く。
『ワルキア領内において、盗賊行為、及び申請のない砂航船の無断保有は禁じられている。即刻投降を』
『さもなくば、我が名の元に、誅罰を下す』
「ふざけんな!てめぇらの言いなりになんてなるか!」
一人が声をあげる。
「てめぇらの王様のせいで、どれほどの人間が野垂れ死んだと思ってやがる!」
それに続けて、他の隊員たちも不満を爆発させる。
無理もない。砂賊団に来る者など、皆身寄りも後ろ盾もない浮浪者だ。
加えて、今代の王が即位しID制度が導入されてからというもの、IDを得ることが出来なかったスラムの人々や孤児等は、問答無用で門から弾き出されていた。
いつ野盗に襲われるともしれない暮らしを余儀なくされ、生活の為に仕方なく賊に身を落とす者も多くなった。
かく言うグレアもその一人だ。
当然騎士様に言いたいことの1つもある。だが今は。
「―――全員、撤退だ」
このまま戦っては、確実に味方が死ぬ。
自分だけならなんとかなるだろう。だが、味方を守りながらとなれば話は別だ。
それはジャイブも同様の認識だったようで、グレアの声を受けて改めて周囲へと指示を飛ばす。
「仕方ない、全員、グレアの言うとおり後退を……」
ジャイブが重ねて指示を出した、その時。
一騎の『
「家族の……仇だッ!」
―――そうだ、確かあいつの家族は騎士団に……
そう、グレアが気付いた時には既に遅く。
その隊員は引き金を引こうとした。
「!?、避けろッ!」
『……残念だ。』
―――次の瞬間、『
弾けたというのは比喩ではない。文字通り、一瞬にしてバラバラになったのだ。
白い残影が、砕かれた黒い四肢の中を颯爽と突き抜ける。
―――その場に残されたのは、マギアメイルだった物の残骸のみだった。
当然操縦席もただの鉄の塊と化し、生存など望むべくもない。
「一瞬で……ッ!?」
隊員たちの間に動揺が走る。先程まで共にいた仲間の命が、一瞬で消えた、その事実に恐怖する。
誰もがざわめき、動くことすら出来ない状況の中、グレアが叫ぶ。
「―――狼狽えるな!さっさと後退しろッ!」
動けない『
「あいつは……俺が引き受ける。だから行けッ!」
「だが、それでは……」
「大丈夫、俺はこんなとこじゃ死なねぇよ。それはお前が一番分かってるだろ?」
「……分かった、死ぬなよグレア」
ジャイブが動けなくなった味方を連れ立って、撤退を先導する。
その様子を見たグレアは安心し、改めて正面の騎士に向き直った。
『よう、団長さん。ようやくタイマンに持ち込めそうだ』
『君は……そうか。私と同じで、強敵を求めし者か』
仲間が殺されたことへの怒りはある。
だがそれよりも、目の前の強者との戦いに胸が躍る。
『恨み言はいいっこなしだ、さっさとやろうぜ』
『あぁ、良いだろう……疾走れ、『
―――紅と白の光が激突する。
魔力を放出しながら、『
その攻撃を紙一重で避けながら、白いマギアメイル―――『
しかし『
そんな一進一退の熾烈な攻防が続いていた。
『おいおい、これじゃあ埒が明かねぇなぁ!』
『よもやここまでの技量とは、予想外だよ』
何十回も、何百回も錨と槍がぶつかり合う。
このままでは勝負はつかない。それどころか、このまま持久戦となれば、
先程の戦闘で消耗しているこちらが先に倒れるのは自明の理だ。
どうやら相手も考えは同じらしく、あえてこの打ち合いを続けるような立ち回りをしている。
これではジリ貧だ。なればこそ、切り札で一気に勝負を決めるしかない。
このままジワジワと押されていくよりも、持てる力を全てぶつけたほうが後腐れがないだろう。
そう決意すると、グレアは魔力を、全て錨型破砕武装ユニット「オケアノス」に集める。
圧縮した最大出力の魔力を、確実に奴の腹に叩きこむ。それしか勝利の道はない。
『ほう、一気に勝負を決めるつもりか?』
『生憎時間がないんでなァ!』
もはや限界まで摩耗した背部ユニットに、最後の力を込める。
圧縮した魔力によって、もはやスラスターは崩壊寸前だ。
グレアが操縦桿に力を込める。それに呼応し、機体の出力が臨界まで跳ね上がっていく。
『行くぜ、相棒ォッ!』
―――全ての魔力を、『
光の如き速さで、白いマギアメイルの眼前に踏み込むと、圧縮魔力に包まれた錨を振り下ろす。
『とどめだァッ!』
『これは、避けれないな』
騎士は冷静に語る。まるで自身が窮地になど陥っていないかのように。
次の瞬間、錨は白いマギアメイルに見事に命中。その装甲はまたたく間にひしゃげる。
―――その筈だった。
だが現実は違う。錨は何かに当たってはいる。だが即座に表れるはずの爆発的な威力はそこには現れていなかった。
そのことに気付いた次の瞬間、『
『速さが足りなかったな、後数秒早ければ、私の首を取れただろう』
―――その白いマギアメイル、『
緑色の透き通った光の壁のなかでは、無傷のマギアメイルの装甲が見える。
『守護……術式……ッ!』
守護術式。それは高位の魔術士、もしくはそれと同等な魔力量を持つものにしか行使できないとされる絶対断絶の盾を顕現させる魔術だ。
―――だが、そんな大魔法を術式としてマギアメイルに積むなどという話は、一度たりとも聞き及んだことはない。
であれば、あの騎士自身の魔力によるものであると考える他ない。
だが、人一人を覆うサイズの物でも長い詠唱と大量の魔力を必要とする大魔法を、なぜこの騎士は瞬間的に発生させたのか―――
そんな疑問をグレアは抱く。だがすぐにそれを振り払った。
―――正直、ショックを隠せない。これはグレアに取って、初めての完全なる敗北だ。
最後の一撃をいなされた『
このまま負けてしまうのか。それは嫌だ。そんなことを思いながら、常に相手から視点を外さない。
『残念だ、万全の状態の君ならば、あるいは、私を殺せたかもしれない』
そう言い、白いマギアメイルが槍を振り上げた。
『グレアッ!』
その時、何かが戦場に撃ち込まれる。
突如として二機の周りを、黒い煙が包んだ。撹乱術式だ。機体のカメラに直接作用し、視界を奪う。
その黒い煙の間を塗って、1機のマギアメイルが現れ、『
「ジャイブ!?なぜ戻ってきた!?」
その機体は『
「なに、お前が放って置けなかっただけだ」
「……ありがとよ」
グレアは素直に感謝する。
普段なら憎まれ口の1つも叩くグレアが、ただ感謝を述べる。
ジャイブにはそれだけで、彼がひどく落ち込んでいるのが伺えた。
その後ジャイブは様々なことを報告してくれた。
隊員は無事船に戻れたこと。
あの騎士団長にだいぶ遅れて、軍のマギアメイルが数機こちらに向かっていること。
そんなことを簡潔に報告されたが、グレアの頭にはほとんど入らない。
そんなグレアの頭の中は、初めての敗北と屈辱の味でいっぱいだった。
◇◇◇
「―――逃げられたか」
遅れて到着した友軍マギアメイルが辺りに散らばる物資を回収する中で、騎士団長、フェルミ・カリブルヌスは呟く。
「フェルミ様、例の運送屋の搬送を開始致しました」
「あぁ、ありがとう」
そう駆け寄ってきたのは青龍騎士団の団員である女性騎士、フィーリエ・カヴァルだ。
透き通るような青髪とスレンダーな長身が特徴的な少女で、三等騎士という未だ低い位に位置する騎士ではあるが、その回復術式の腕前は騎士団一といっても過言ではないほどの技量を誇っている。
「それで、逃げた砂賊たちへの追撃ですが……」
「しなくていいよ」
フィーリエの進言を、フェルミはぴしゃりと遮る。
その声色には、絶対にその意見を取り入れるつもりはないという強い意思が見える。
「え、ですが……」
「―――それよりも、運送屋の少女の容態はどう?もしあんまりにも悪そうなら、君が着いていてあげてくれ」
「僕は、あの白髪の少年と少し話がしたい」
そう言ってフェルミが見据える先には、数人の騎士に連れられて騎士輸送用の魔動車に載せられるフィアーの姿があった。
―――その瞬間、フェルミの口角が不意に上がったのを、フィーリエは見逃さなかった。
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