第37話

 しかしそんなおれの気持ちに頓着するはずもなく、彼女は後ろ手で勢いよく左右に戸をばあんと開き、左に退いた。

 この国には電灯というものがないので、光はすべて太陽光だ。ただ、さすが神様の国だからか、その光は隅々にまでさし渡るような感じがする。この倉庫は切妻屋根の一部と壁面に窓(といってももちろんガラスなどはなく、くり抜いてあるだけだけど)があり、そこから光が差し込んでいた。ただ、明るいところから暗い中を覗いたのではっきりと中を確認するのには数秒を要した。

 まず目に入ったのは正面にある見たこともない派手なドラムセットだった。テリー・ボジオとまではいかないが、セットを覆うような鉄のフレームからシンバルがいくつもぶら下がり、タムの数はざっと正面から見ただけでも10以上はあった。さらにはバスドラもなぜか4つ半円状に並べられている。

 「すげえ・・・」

 おれの斜め後ろにいる善太は大きなため息を漏らした。だが、おれは視線をそのドラムから移したとたん、異形のものが部屋の左右にそれぞれいるのに気がついた。理子と善太も、ほぼ同時に息を飲んだ。

 「な、なにあれ・・・」

 理子が思わず言うと、その二体は首をあげこちらをギロギロと光る目で睨んできた。その首の周りはまるでライオンのたてがみのようにくるくるとした黄金の巻き髪で覆われていた。ウウウというかすかに低い唸り声のような声が聞こえる。右のやつの体は真っ黒で、左のやつは真っ白だ。

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