第20話

 「でも事態は思ったより深刻だった。この高天の原や神の国だけでなくて、タケオ君たちの葦原の中つ国にまで実は影響が出始めているのよ。さっきの歴史の教科書の話があったでしょ、古事記が載っているって。本来ならあんなことがまかり通るはずがないよね。つまりこちら側からの働きかけがあったってこと。その原因はまだよく分からないんだけど」

 そのうち前方に大きな館が見えてきた。それは高い板塀に囲まれ、木造の立派な門がしつらえてある。だから実際に見えるのは台形の大きな屋根だけだったが。

 車が門の前に停車すると観音開きの門が内側に開いた。高さ5メートルはあるだろう。そしてそこに広がる光景におれたちは思わずわあと声を上げてしまった。

 古代人の服装をした何千人という人、いや、神様がこちらを向いて整列していたのだ。神様たちはみな首に勾玉の首飾りを提げ、ヒゲをはやし、みずらというのか、八の字に髪を顔の両側に束ねている。顔の左右で棒状に髪を束ねている神様もたくさんいた。そしてみんながこちらを一心に見つめているではないか。

 館に向かって車の通る幅の分だけ一直線に空いていた。オトタチはゆっくりと車を進ませた。これほどの人数がいるのに、恐ろしい程の静寂だった。

「みんなギルモアヘッドを待っていたのよ」

 オトタチの言葉を聞きながら、おれは頭がクラクラしてきた。明晰夢じゃないかと疑ったくらいだ。

 やがて車は館というよりは御殿といったほうがいい、崇高で荘厳な雰囲気がただよう建物の前で停止した。修学旅行で訪れた京都御所を思い出したが、この建物はそれよりも倍以上の大きさがある。

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