第2話

「ツアー?いきなり?」

 おれは打ち上げの居酒屋で素っ頓狂な声を上げてしまった。オトタチの話はあまりに唐突で、しかも条件が良かったからだ。

 「そう。ウチの会社、関西・中国方面にネットワークがあって、そこからライヴのブッキングができるの。費用は全額会社が持つよ。キミたちはバンに乗って、西日本を10日ほど旅行気分でライヴをして周ることになる」

 「ホント?うわあ行きたい!」

 「オレも!オレも!」

 高校生の理子と善太は素直に喜んでいるが、おれはいきなりこんなにトントン拍子に話が進んでなんだかキツネにつままれた気分だった。

 「あの、こんなことを言うのもなんだけど、おれたちダマされてないよね。後でお金を請求されるとか・・・」

 おれの隣に座っているオトタチはまさか、というような表情をしておれに向き直った。思わずかわいい、と思ってしまった。ほんのりいい香りがした。

 「まあ、確かにはじめましての人にこんなこと言われたら心配するよね。大丈夫、きちんと契約します。明日か明後日でも、タケオくんが都合のいい日に事務所に来て。場所は新宿の花園神社のとなり」

 「花園神社って、お兄ちゃん、こないだ行ったばかりじゃん。わあ、お参りして高い御札買ったご利益あったねえ!やっぱり神様はいるんだなー」

 確かに俺たちは一週間前、花園神社へ参拝していた。テレビで芸能の神様だという紹介があったので新宿でライヴがあったついでに、バンドの成功祈願をなんとなくしてみる気になったのだ。

 「あら、奇遇ね。そう、神様のおかげかもね・・・これも何かの縁に違いないわ。じゃまた乾杯しようよ」

 オトタチはそう言っておれのグラスにビールをつぎ、高校生の二人はウーロン茶のグラスをあげた。オトタチもグラスを持った。

 「乾杯!」

 そのあとのことはあんまりよく覚えていない。理子が言うには、おれは調子に乗って酒を飲み、音楽のことや、バンドの将来をとうとうと語ったらしい。オトタチは嫌な顔ひとつせずに、ニコニコしてそれを全部聞いてくれたそうだ。

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