勇者と15センチメンタルズの男女ン探検記
沢田和早
冒険の開始
オレは勇者だ。
片田舎の農家の生まれ。男ばかりの4人兄弟の末っ子とあっては家を継げるわけもなく、ガキの頃から故郷を出て一旗揚げてやろうとそればかり考えていた。
うまい具合にオレの住んでいた村には剣士くずれのオッサンが住んでいたので、毎日稽古をつけてもらった。そうして15才で故郷を出てからは流浪の日々。あっちの町こっちの村でクエストをこなしてそれなりに名を上げ、気が付いたらもう30近くのオッサンになっちまった。
「そろそろどこかの土地に腰を落ちつけるか」
そんな考えが頭に浮かび始めた時、センチメンタル・シティの噂を耳にした。
迷宮「
何の永遠かは知らないが、まだ誰一人として泉の「永遠」を手にした者はいないって言うんだから、冒険心がくすぐられるじゃないか。オレは迷うことなくこの町に足を運んだってわけさ。
「邪魔するよ」
町に着いて最初に入ったのは酒場。情報収集の基本だ。さっそく人の好さそうなオヤジに話を振ると、
「ああ、あなたもあの迷宮目当てですか」
うんざりした声で言葉が返って来た。オレみたいな冒険家をこれまで何人、いや何十人と相手にしているのだろう。まるでガイドのように淀みない口調で説明してくれた。
「迷宮『
「また風変わりな迷宮だな。オレが中に入るには最低でも女ひとりが必要ってわけか。冒険者ギルドで募集して探してみるとしよう。ところで迷宮の奥深くにあるトワの泉なんだが、どんな『永遠』が手に入るんだい」
「それはわかりません。まだ誰も手に入れていないのですからね。ただ、泉にたどり着けた冒険者たちは何人かいるのです。けれども彼らは決してそれについて話そうとしないのです」
「ふーん、まあいい。それは行ってみてからのお楽しみとするか。ありがとよ」
オレは礼を言って酒場を出ると冒険者ギルドへ向かった。そこで迷宮探検パーティー募集の依頼を済ませると、その日は宿屋で休んだ。
次の日の午後ギルドへ行くと、予想外に多くのメンバーが集まっていた。7組の男女、そしてひとりの女。総勢15人だ。迷宮は15の
「この町でもあの迷宮の関心は高いのですが、パーティー募集をしてまで挑もうとする方は滅多にいないのです。この町の皆さんは引っ込み思案で気弱な方が多いですからね。今回あなたの募集に応じてくださった皆さんもそんな性格の方ばかりです」
「へえ、そうなのかい」
「はい、そうなのです。センチメンタル・シティの名の通り、この町の住民は全員センチメンタルなのです。怒鳴ったり、きつい言葉を言ったり、怖い表情をしたりするようなことはやめてくださいね」
「おいおい冗談だろう。おセンチな奴らが迷宮の敵と戦えるはずないじゃないか。これじゃ足手まといにしかならないな。ちっ!」
「あ、ああ、すみません。こんなメンバーしか集められなくてすみません。ごめんなさい、ごめんなさい」
ギルドの職員が怯えている。オレの機嫌が悪くなったのを敏感に察したのだろう。どうやらこいつもかなりおセンチな性格のようだ。
オレは無理に愛想笑いをすると、「決行は明日。明朝8時にここへ集合せよ」と全メンバーへ連絡するよう依頼してギルドを出た。
「単なる数合わせと言っても、おセンチなメンバーじゃ先が思いやられるな。せめて酒場のオヤジ程度のメンタリティがあればいいんだが」
若干の不安が胸の中に渦巻く。その日は町で探検に必要な水、食料、薬、装備品などを買い集め、宿屋で休んだ。
次の日の早朝、8時ピッタリにギルドに着くと、募集に応じて集まった15人は既に隊列を組んでオレを待っていた。ヤル気満々のようだ。その雄姿を見てオレの杞憂は一気に吹っ飛んだ
「諸君、おはよう! 今日はこの町にとって記念すべき日となるだろう。誰一人として手に入れられなかった泉の『永遠』が、遂にオレたちのものになるんだからな。気合を入れていくぞ、えいえいおー!」
「え、えいえ、い、おぉ~……」
気の抜けた声が返って来た。15人もいるのにオレ一人の声より小さい。
『ちっ、やっぱりメンタルは最低レベルか……』
朝早くから整列していたのはオレの機嫌を損ねないためで、ヤル気があったからではないようだ。初っ端からすっかり気勢を殺がれてしまったが、それを顔に出しては15人のヤル気が更に低下するのは必至。オレは思いっ切り愛想の良い顔すると、売れない商人の如き腰の低さで声を掛ける。
「さてと、それでは皆さん、迷宮に向かいましょうか。これからオレたち、いや、私たちのパーティーは『勇者と15センチメンタルズ』と名付けることに致しましょう。いかがですか」
「は~い、賛成で~す」
またも気の抜けた返事である。
こうしてオレと15人の仲間は15の戦地が待ち受ける迷宮「
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