第56話 エピローグ

 今日も晶君は、お見舞いに来てくれた。


「はい、これ」


 カバンから用紙の束を取り出し、私に手渡す。


 私が授業に遅れないように、ノートをコピーして持ってくるのが日課になっていた。


 彼は、はにかみながら、いつも優しく私のことを見守ってくれている。


 小学生の時、医療ミスがあって死にかけたときも私を助けてくれた。


 今回も彼に助けられた。


 私が医師から死亡宣告された時、『まだ死んでいない!』と最後まで諦めなかったのは、身内ではなく彼だった。


 その時の様子をお母さんが話してくれた。


 『晶君が大声で叫ぶと、彼はゆかりの頭付近に右手をやり、左手ですばやく何かを交換するようなしぐさをした』と、言っていた。その後、半日も意識を失っていたということだった。


 お母さんの話ですべて理解した。


 自分のロウソクと、消え去ろうとしている私のロウソクを交換したのだ。多分、一か八かの賭けだったと思う。私だけでなく自分も死んじゃう可能性だってあったはず。それでも、彼は自分の命をかけて私を救ってくれた。そして、彼がもう以前の能力を持っていないことも知っている……。


 なのに彼は、何も言わなかった。


 ただ、私が目を覚ますと、


「よかった……助かってくれて、ホントによかったよ……」


 涙ながらにそう言っただけだった。


 今日、学校であった出来事を楽しそうに話す晶君の頭の上に、私の視線が自然と向かう。


 くの字に曲がった短いロウソクが乗っているのが見えた。他の人に比べてかなり短い。短いことがどんな意味なのかもわかっている。


 彼の折れたロウソクと、私が引き継いだ彼の能力。これで明白だった。


 私は、心の中で


(晶君、助けてくれてありがとう……)


 と、言った。


 ジッと見つめる私を変に思ったのか、


「何? ゆかりちゃん、どうかした?」


 晶君が、キョトンとした表情を見せた。


「なんでもなーい」


 私は、笑ってごまかした。


 そして、もう一度、


「晶君、助けてくれてありがとう」


 と、今度は声に出して言った。

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僕と命のロウソク 橘 竜の介 @tatibana_ryunosuke

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