第20話 高校生活の始まり
高校の入学式以来初めての登校なのに、僕は寝坊して焦っていた。歩いて20分ほどの距離の高校に入学できたのに、初日から遅刻するかもしれなかったからだ。
僕は真新しい学校指定のカバンを持って、早足で学校に向かった。
小学生のときに負った大ケガの後遺症も、今は、懸命なリハビリのおかげで松葉杖なしでも歩けるようになった。それでもビッコをひきながら歩く姿は変わらずで、これだと高校でもビッコとあだ名をされそうでちょっと困る。
僕がこれから通う高校は、進学校といっても過言ではないくらいの学区内では上位に位置する学校だ。
高校受験の時に、当初は私立の学校に行く予定だったのだけど、近いという理由だけで地元の県立高校をダメもとで受けたらみごと合格。先に受かっていた私立には行かず、地元の高校に進学することに決めた。一番の理由は、歩いていけることだ。
大ケガが治ったっていっても、僕の右足にはいくつもの金属板とそれを固定するボルトが埋まってて、長時間の登下校時間はやはり足に負担となってよくない。私立の高校に行ったら片道一時間以上もかかる。バスと電車に乗りついで、なおかつ長時間立ちっ放しでの登校を高校3年間続けたら治った足も悪くなるかもしれない。それに、成長期に合わせて、足の金属片を取り除き新たに足の骨と同化する補強材を埋め込む手術をしないといけなくて、そのときにはまた松葉杖のお世話になるからだ。そういう理由もあって近くの高校へ入学できたのはうれしかった。
僕は、それほど勉強ができる子ではなかったけど、図書委員になって本を片っ端から読んでいたら知識と読解力がついたらしく、全体の科目の学力アップにつながったようだ。おかげで進学校と言われる高校へ運よく入学することができた。さすがに僕の周りの仲のよかった友人は、勉強のできないやつばかりだったので離れ離れになってしまったことが残念だった。
学校までは、適度な運動が足にも良いとリハビリの先生からも言われているので、なるべく歩くようにする。バスでもいけるけど、4つ先の停留所が高校の最寄のバス亭なので近すぎて使うことはないと思う。ホントは、自転車でピューって登校したいんだけど、まだ膝がうまく曲がらないので自転車はやめている。それに自転車で事故を起こしたせいで、母さんは自転車恐怖症になっている。もし僕の足が完璧に治ってまた自転車に乗りたいなんて言ったら、血相を変えて反対するかもしれない。
そういう理由もあって、僕は近くの高校に歩いて通うことを選んだ。
待ちに待った高校生活なのに、初日から寝坊。早足で学校へ急いだけど、学校の周囲には誰も生徒の姿が見えない、完全に遅刻だった。
起きたのが朝の8時過ぎ。急いで支度して家を出たのが8時15分。さすがに近くの高校っていっても8時25分の予鈴前に校舎に入るのは無理だった。でも、逆に完全な遅刻になったおかげで遅刻を取り締まる人が誰もいなくて、悠々と校舎へ入ることができた。
僕の通う高校の校舎は、上から見るとHの形をしている。校庭のある南側の第1校舎と北側の第2校舎は、渡り廊下で結ばれている。全校生徒は約600人ほどの学校だ。吹奏楽と美術部が有名な学校らしいけど、僕にはどちらも縁がないので詳しいことはわからない。
そして、僕の教室1年A組は、南側第1校舎の2階ある。僕は南棟の入口に入り、コインロッカーみたいな下駄箱に革靴を放り込み、ボタン式のキーレス錠をかけ、新しい上履きに履き替えて教室に急いで向かった。
階段を上がってすぐのところにある教室に飛び込むようにして入ると、クラスメートの視線が一斉に僕に向けられた。みんな初顔合わせなだけに緊張した面持ちで自分の座っていた。教壇を見ると、まだ先生が来ていなかった。ギリギリセーフだ。
僕は、窓側の列の1番後ろに座った。毎回、名前のあいうえお順で席が決められるので、新しいクラスになるたびに後ろの席を自動的に確保できる。この点は山崎という自分の名前がありがたいと思った。
急いで登校して呼吸が荒れていたけど、息を整える間もなく担任の先生がやってきた。
高校1年の担任は、女性の先生だった。丸顔でちょっと下がり気味の目の愛嬌のある顔立ちで、少し小柄で華奢な体つきをしている先生だ。
「皆さん、おはようございます。1年A組を受け持つことになりました加山忍と言います。担当は英語です。1年間、共に楽しく元気にやっていきましょう。――それでは、初日ですので私への質問を受け付けます。それが終わりましたら、皆さんの自己紹介を行いたいと思います」
加山先生は、年齢は31歳で独身。彼氏は無し。趣味は、読書と旅行。お約束のスリーサイズは内緒だそうだ。
先生への質問が終り、次にクラス全員の自己紹介が行われた。
1人ずつ席を立って自己紹介をするんだけど、みんな緊張してか頭の上のロウソクの炎が白味がかった黄色になっている。
みんなのロウソクを眺めながら分析してたら、あっという間に僕の番が回ってきた。僕は、席を立ってあいさつをした。
「立花中学から来ました山崎晶です。僕は、小学校の頃に生死をさまようほどの大事故に合いました――」
僕は最初に事故のことを簡単に説明した。それと足が不自由で歩けるようにはなったけど、運動が一切できないことも付け加えた。
休み時間や放課後、さらに部活などの運動に誘われていちいち断るのが面倒ということもあったのと、説明をしないでいつも断っていると相手に悪感情を持たれてクラスで居心地が悪くなるからだ。
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