魂宿る美術館

三の木

はじめに

*1 魂宿る美術館


 S県宿木やどりぎ市では「もの」には魂が宿ると昔から考えられてきた。いつしか大切に作られ、扱われた「もの」の魂が人々に姿を見せるようになった。姿を見せると言っても、いつでも誰にでもという訳ではない。ときに作り手の元に、ときに大切に扱ってくれた人の元に、その魂は姿を現す。


 そして、今から30年前、宿木市に1つの美術館が建てられた。その名も『宿木美術館』。敷地面積28,872m²。上から見るとカタカナの「エ」のような形をしている。豊かな緑と花に囲まれ、大きな噴水が人々を出迎える美しい美術館である。


 不思議なことに、ここに収蔵された作品は次々とその魂を人々の前に現した。作品に宿った魂が人の形を取って現れるのである。誰にでも見えるわけではない。見える人と見えない人の違いも、なぜ見えるのかも謎のままだ。ただ、彼、彼女らはたしかに存在し人々に語りかけてくる。


 いつしか宿木美術館は「魂宿る美術館」として、世界中で有名になった。




 この美術館で働く条件はたったひとつ――作品の魂が見えるかどうかである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る