僕と私の15センチ

月天下の旅人

第1話「僕と私の出会い」

 この僕、夏樹 海翔なつき かいるはごく普通の男子高校生だ。

 一つ違う点は、冬桜 吹雪ふゆざくら ふぶきって子と突拍子もないことで付き合うことになったくらいだ。

 恋なんて誰でも突拍子なく始まる物だという人も居るけど、僕が付き合うきっかけは本当にとんでもなかった。

 今から僕が語ることは非科学的だという人が多いかと思う。

 僕の周りの人が信じたのだって、あの神社に伝わる伝説があったからだし。

 伝説っていうなら、結局非科学的なことは変わらないだろ、と思う人もいるかもしれない。

 何しろ、僕と吹雪は『入れ替わった』のだから。

 そういうの映画で見たって?

 僕も実際のところ夢の中で入れ替わってたりする映画を見て感動した人だったりするし、

そういいたくなる人が居るのも分かる。

 ただ、僕として幸運だったのは。

 それが7月下旬で、ほとんど学校には行かなくて良かったことだ。

 僕は文芸部で、吹雪は演劇部だった。

 演劇部なら夏合宿がある、というわけではない。

 吹雪は秀才で、合宿が免除されていたのだ。

 ともかく、きっかけは些細なことだった。

「確か文芸部の夏樹君、だっけ?」

 秀才とはいえ近寄りがたい雰囲気の彼女に、そう声を掛けられたのは意外だった。

 周りからはそこそこかっこいいといわれるけど、僕自身は地味で冴えないと思っている僕が声を掛けられると思ってなかったからだ。

「どうしたの冬桜さん?」

「今から神社行きたいんだけど、一人じゃ不安で……」

 彼女は隣のクラスだったのだが、そこそこかっこいいくらいの僕が一番話しかけやすかったのだろう。

 自慢乙とかいわれるかもしれないが、イケメンな子だと騒がれるのではないかと思ったに違いない。

 実際、僕よりかっこいい男子はクラスに5人は居るだろうし。

 どうあれ、僕と吹雪は神社に向かったわけだけどそこで事件が……

 いや、正確には事故というべきだろうか。

 ともかく、それは起こった。

「きゃあ!」

 参拝から帰ろうとした吹雪が、階段に足を取られてしまったのだ。

「吹雪!」

 僕は思わず彼女を引っ張りあげようとするが、自分があまり力持ちでないことを失念していた。

 結果として助けるつもりが落下に巻き込まれてしまった。

「うう……」

 僕はうめいた。声がおかしいとは思ったが、傷を負っているんだと思ったから気に留めなかった。

 しかし、僕の耳にが聞こえて来た。

「夏樹君、しっかり……!?」

「何で目の前に、僕が?」

 その問いに『冬桜さん』(以下『僕』とする)はこう答えた。

「そういえば、この神社にはこんな昔話があったわ」

「質問の答えになってないんだけど」

 そう返した僕に『僕』はこう返す。

「なら単刀直入にいうわ。あなたの身体を見てみて」

 胸が重いとは思ったが、傷を負っているんだろうと思い無視して身体を見下ろしてみた。

「これは……!?」

 戸惑った。この身体は見慣れた『僕』の身体ではなかったのだ。

 しかも驚いたことに、身体には傷一つついていなかった。

「そういうこと。あなたの身体で女言葉を使うのはまずいだろうし、説明する」

「適応力高いね」

 そんな僕に『僕』は答えた。

「そりゃ、演劇部だからね。ともかく、この神社にはこんな逸話があるの」

 『僕』がいうには僕の行った神社で、昔心中しようとしたカップルがいたらしい。

 だがその心中は失敗し、二人は入れ替わってしまったのだという。

 この二人の入れ替わりを知った人々は神様のお告げだと思い、二人の結婚を認めた。

 すると二人は元に戻り、二人は一生涯仲睦まじい夫婦として過ごしたのだという。

「ここのご利益は恋だったけど、そういういわれがあったのか」

 そんな僕に『僕』はいう。

「まあ、友達のためにお守り買おうと思って来ただけなんだけどね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る