スカーレット・フィクション

おイモ

スカーレット・フィクション

 あなたはカタチほど誠実じゃない。皮を被っているわけじゃないだろうけど、目尻のあたりからボロが出ているわ。馬鹿みたい。死にたいなんて嘘ばかりついて今日もこうして生きているのね。早く死んでしまいなさい。

 あなたを殺すための武器は世に溢れているわ。どうして死のうとしないのか。あなたは臆病な狂人よ。何もできやしないのね。私が殺してしまいたい。あなたの首にしっとりカミソリを当てて、ゆっくり静脈に亀裂を入れて、じっとりとあなたの体液を舐めたい。虚無の味がしそうだわ。何もない男。

 わたしを求めるその瞳がすごく気持ち悪いの。何だか首を絞めたくなるようなそんな信号を発するその目が気持ち悪い。潰してしまおうかと何度思ったか。眼球を思い切り噛み砕いてやりたいわ。焼いた魚の目よりずっと美味しそう。舌の上で転がしながら街を練り歩きたくなるくらいに美味しそう。だから早くわたしを見つめてよ。その気持ち悪い瞳で。

 絶対に触らせない。早く死になさい。でもわたしが知らないところで死なないでちょうだい。わたしの目の前で死んで。わたしが手をかけてあげるから他所で死なないで。わたしのために死になさいよ。早く死になさいよ。

 どこにもいけないそんな身体であなたは何がしたいの。どうせまた夢でも見たんでしょう。見えない世界の知らない肌に触れる夢。病気なあなたは夢でしか世界に触れられない。哀れな男。気持ち悪いわ。そんな夢わたしは見たくないもの。

 現実が嫌いなんでしょう。大げさなのよいつも。あなたは弱すぎたのよ。世界の空気が合わなかった。それだけで諦めるなんて本当に情けない男。そんなんでいて自分が誠実だなんてよく言えるわね。馬鹿みたい。呼吸をしているだけで可哀想な男。わたしが殺してあげるわ。

 何かを求める気持ち。何もない世界。何ともできない身体。この部屋は真っ白。あなたは何も創り出せない。何も描けない。何も書けない。何もできない。あなたはこの部屋で独り。どうして生きているの。どうして死なないの。わたしが殺してあげるわ。わたしだけがあなたを死なせてあげられる。あなたを殺したい。

 ねえ、スカーレット・フィクション。これは愛情とは言えないのかしら。何が誠実かなんて誰にもわからないと思うの。虚無は嘘じゃないわ。だから誰も嘘なんてついてない。わたしはあなたを救いたいだけよ。

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スカーレット・フィクション おイモ @hot_oimo

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