第45話 モブキャラだって部活ぐらいする3

「いつからこの野球部の世界観はパワ〇ロになったんですか!?」

俺は思わずそう叫んでいた。


「べっどデ横ニナルダケデ簡単ニばっと使イガ上手クナレマース」


どっかで見たような眼鏡をかけた白衣の怪しいおっさんが、カタコトな日本語で明らかに胡散臭い話を持ち出して来る。

このパターンは、かの有名な野球ゲームの例のイベントだ。

先ほどまでの真面目な野球愛の話が一気に頭からぶっ飛ぶ。

とにかく現在の状況を整理しなければならない。

「し、茂野先輩!?こ、この人は一体?」

「ああ・・・この人こそ野球部存続の危機を救ってくれた救世主、ダイジョーブ博士だ!」

「それはわかっているんです!俺はなぜこの人がこんなところにいるのかを聞いているんです!」

「ん?ああ、そういうことか。実は去年、ある日の夜に俺はこの人に誘拐されちまってよ!そのまま実験台になってくれって言われて試しに手術を受けたら、なぜか前よりもバッティングが上手くなってたんだ!それでそのあとも付き合いが続いて、今もこうして定期的に手術しに来てもらってるって感じよ!」

「よく今の話の流れでその人信用する気になれましたね!?」

正直シャレにならない事件だと思うのだが、被害者である当の本人は笑っていた。

スポーツ系の主人公ともなると、これくらい肝が据わっていなければ務まらないのだろうか。

「ち、ちなみになんですけど、手術が失敗したらどうなるんですか?」

憧がひきつった笑いを見せながら聞く。

それに対して茂野先輩は実に爽やかにこう言った。


「ああ、大丈夫だ!なんか・・・こう・・・体がボンッってなるだけだ」


「何が大丈夫なんですかそれ!?明らかに人体の一部が爆発している表現ですよね!?」

「でもよ・・・俺たちは甲子園に行くことに命かけてっからよ・・・これくらいのリスク屁でもねぇぜ・・・」

「リアル命懸けてるのはアンタらくらいですよ!?」


想像していた以上にこの野球部の倫理観は無茶苦茶だ。

先ほどのサッカー部とはまた違った危なさを持っている。

俺が唖然としていると、憧がうーんとうなっていた。

「あれ?先輩、ダイジョーブ博士が定期的に手術しに来てくれてるって言ってましたけど、確かゲームとかだと野球の能力を上げるのって結構確率低かったような気がしたんですけど・・・」

そういえばそうだ、あのゲームだと大抵の場合失敗するととてつもなく不幸なことが起こっていた気がする。

それだけ成功確率の低い手術を何度も成功しているのだとすると、とてつもない豪運だが・・・

「うん・・・確かに、高くはないな」

「・・・ん?」

なんだか茂野先輩の雰囲気が少し変わった気がする。

なんというか・・・どこか怖いというか・・・何かを隠しているようなそんな感じだ。

だが、憧はそんなことを気にせず続けて質問する。

「先輩・・・俺さっき思い出したんですが・・・確か・・・去年の野球部って部員もっといましたよね・・・?」

「・・・そうだったけか・・・」

「ダイジョーブ博士が来始めたのって・・・去年からでしたよね・・・?」

「そうだな・・・」

「え?あれ?ちょっと・・・?」

段々と空気が重苦しくなり、憧の顔も段々と険しくなっていく。

茂野先輩は笑顔のままだが、逆にその笑顔がどこか不気味だ。

そして憧は最後の質問をする。

「茂野先輩・・・最後にもう一つだけいいかな・・・?」

「・・・何だ・・・?」


「いなくなった野球部の部員・・・どこに行った?」

「・・・キミのようにカンのいいガキは嫌いだよ」


「ハガ〇ンみたいなやり取りやめろ!」


もしこれが事実であるならばショウ・〇ッカー並みの大悪党だ。

こんな命を何とも思っていないブラック部活からは今すぐ逃げた方がいい。

俺は茂野先輩に聞こえないようにこっそり憧に囁いた。

「なぁ・・・この部活ヤバイって・・・さっさと別の部活に行こうぜ・・・」

だが憧から出た言葉は俺の予想とは違っていた。

「いや、俺は手術を受けるぜ」

「はぁ!?」

思わず声が出てしまった。

こんなどんな目に遭うかすらわからない、とんでもなく危険な手術を受けるような人間がすぐ近くにいるとは思わなかった。

「な、なに言ってんんだ!こんな明らかに怪しい手術なんて受けたらどうなるかわかったもんじゃないぞ!」

「・・・お前こそ何言ってるんだ?今まで野球経験のない俺がいきなり始めたところで活躍なんてできないだろ!?危ない手術でも成功するだけでスター選手になれるんだったら、どんなに危険でも俺は受けるぜ!」

「憧・・・お前・・・」

俺は憧の部活に対する思いに勘違いをしていたのかもしれない。

動機は不純でもコイツのスターになるという覚悟は本物だったのだ。

友人がここまで言うのなら、友として俺はこいつの決断を尊重しよう。

「なぁ憧・・・お前ならきっと成功でき」

俺が励ましの言葉をかけようとしたその時、俺の言葉を遮り憧は言った。


「それによぉ・・・なんの努力もしないでモテモテになれるなんて最高じゃね!?」


・・・やっぱりここで止めておくべきだろうか・・・

そんなこと思っていると、憧の言葉を聞いたダイジョーブ博士がすぐさま動き出した。

「心意気、シカト受ケ取リマシタ。ソレデハ、れっつごーシマショウ!」

その言葉と共にダイジョーブ博士の後ろから全身紫の装束で覆われた男がスッと現れた。

「うわっ!だ、誰!?え?ちょっと!?何を!?あああああああああああああ!」

そして男は一瞬で憧を担ぎ、ダイジョーブ博士と共に部室の方へと消えていった。

まさに一瞬の出来事であった。


「努力ナシニ生マレカワルトイウコトガドンナ痛ミヲトモナウカ・・・・・・

身ヲモッテ知ルガイイデース・・・!」


「え?ちょっと待って!?まだ心の準備が!?」


「神デモ悪魔デモ好キナ方デモ祈ルガイイデース!!」


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


あたり一帯にすさまじい悲鳴が響き渡った。



10分後・・・・


ダイジョーブ博士が部室から出てきた。

そして一言、こう言った。


「オウ!奇跡デス!成功シタデース!医学ガマタ一歩進歩シマシタデース!」


「えっ?ホントですか!?」

手術時間が10分で短すぎないか?とか思ったが、もう気にしないことにしよう。

今は何よりも憧がボンッとならなかったことに、何よりも安心した。

「コレガ手術ノ結果デース」

そう言ってダイジョーブ博士は一枚の紙を渡した。

どうやら今回の手術で上がった能力がそこに書かれているようだ。


弾道が5上がった。

持久力が10上がった。

強さが10上がった。


「おお、結構上がってんな」

茂野先輩が横からのぞき込んで言う。

「へぇ~こんな風に書かれるんですね」

こんな感じの文字列が何行も書かれている。

「他にも特殊能力がゲットできたりもするぜ」

「ほぉ~まんまパワ〇ロですね」


弾道が5上がった。

弾道が6上がった。

弾道が4上がった。


「ん?」

なんだか気のせいだろうか、弾道がすごい上がている気がする・・・

まぁこんなことあるだろう、そう思って読み進める。


弾道が5上がった。

太さが3上がった。

長さが5cm上がった。


「んんん?」

何かおかしいパラメータが混じっている。

長さとか太さとか野球に関係あるのだろうか。

「ダイジョーブ博士?ここ間違ってない?」

「間違ッテマセーン」

「そうですか・・・」

ならばこの太さとか長さはもしかして、体系や身長のことを表現しているのだろうか。



早さが10上がった。

早さが10上がった。


特殊能力「早漏」を手に入れた。

「包茎」が直った。

「短小」が直った。



「これ全部チ〇コのパラメータじゃねぇかああああああああああああああああああああああ!」

最後の方まで読んでようやく理解した。

このレポートには徹頭徹尾、チ〇コの話しか載っていないのだ。

「言っただろ、バッティングが上手くなるって」

「どこのバットの扱いが上手くなってるんですか!?」

「これまでに手術した連中みんなダイジョーブ博士のおかげで股間の悩みが解決したんだ。感謝してもしきれねぇよ」

「もうコレ実質ただの東京〇野クリニックじゃないですか!?」

「大丈夫だ、ちゃんと野球も上手くなってるはずだぜ、ほら最後まで読んでみろって」

「えぇ・・・」

もうこれ以上友達の股間情報を知りたくないのだが・・・

推されるがまま読み進める。


特殊能力「バットセンス〇」を手に入れた。

特殊能力「夜のホームラン王」を手に入れた。

特殊能力「玉遊び〇」を手に入れた。


チ〇コが一個増えた


「なんでだああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

これはどう考えてもおかしい、明らかにおかしいことが起きている。

すぐさまダイジョーブ博士を問い詰める。

「なんで憧のチ〇コ一個増やしてんですか!?」

「オー、前ノ手術失敗シタトキナンカ余ッテタカラツイデニトリツケタヨ。りさいくるネ。」

「こいつどんな倫理観持ってんの!?」

あっけらかんととんでもないことを言うダイジョーブ博士、やはりこいつはサイコパスだった。

そんな八百屋さんのオマケみたいな感覚で、他人のチ〇コを取り付けようとする感覚が理解できない。

「早く戻してあげてください!じゃないとあいつのあだ名ダブルドラゴンになっちゃいますよ!」

「オー、オマケデ付ケタノニ残念デース・・・セッカク右ノ皮ニほくろガアルおしゃれナヤツ選ンダノニ・・・」

「別に黒子あったからっておしゃれじゃないですよ!?」

コイツの美的センスはどうかしている、いや美的センス以外の感覚も終わっているのだが。

そんなことを話していると、茂野先輩が何か考え込んでいた。

「どうしたんですか?先輩?」

「いや・・・なんかおかしいなと思ってな・・・」

「今更何を言っているんですか・・・」

始まりから終わりまで何もかもがおかしいのに今更どこに引っかかっているのだろう。

いい加減憧のもとに向かおうとしたその時、

「そうか・・・やっと気づいたぜ!」

茂野先輩が突然大きな声を出した。

聞きたくないが、一応聞いておこう・・・

「・・・何に気づいたんですか?」

頼むから全てが狂っているこのマッドサイエンティストのおかしさに気づいてほしい。

そして今からでもいいからまともな野球部となってほしい。

「ああ・・・さっきのダイジョーブ博士の話を聞いて気づいちまったんだ・・・大きな違和感・・・いつの間にか無くなっていた大切なものの存在に・・・」

「・・・それは?」

「・・・


憧につけれたチ〇コ・・・俺のだ・・・いつの間にか無くなってたかと思ったが・・・へッ・・・そんなところにあったんだな・・・俺の大切なもの・・・」



「お前のだったんかイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」


少年はようやく気付けたのだ・・・その夏に失った・・・大切なものに・・・






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